第七章 南部交易の血路
南部の港湾都市――ここは王国の富を支える交易の要。
しかし二つの大商会が利益を争い、流血寸前の対立を繰り広げていた。
一方は王妃派に繋がる「ゴルディーニ商会」、もう一方は王太子派が後ろ盾の「ベルネッティ商会」。
表向きは商会同士の争いだが、その裏には宮廷の派閥抗争が潜んでいる。
ここを解決できなければ、王国の財は枯渇し、王権はさらに失墜するだろう。
クラリッサ――元宦官は静かに港町に姿を現した。
その瞳は、獲物を射抜く猛禽の光を宿していた。
第一の策 ― 仲裁の仮面
「争いを収めたいのです。王都からの使者として」
そう言いながら、クラリッサはまず双方の代表者を同席させた。
豪奢な商館の大広間。
互いに睨み合う商会の長老たち。
「王都はどちらの味方だ!」
「我らを抑えれば、南部の交易は死ぬぞ!」
怒声が飛び交う中、クラリッサは涼やかに微笑んだ。
「……どちらの味方でもございません。ただし、どちらが王国により多くの利益をもたらすか、それは見極めさせていただきましょう」
その言葉に、二つの商会は競い合うように条件を提示し始めた。
第二の策 ― 利益の選別
数日の交渉の末、クラリッサは冷徹に判じた。
「ゴルディーニ商会は規模こそ大きいが、腐敗が深い。
ベルネッティ商会は未熟だが、忠実に命令に従う素地がある」
彼は密かにベルネッティに援助を与え、港湾の関税を有利に改訂した。
表向きは「公平な条約」と装いつつ、その実、利益の流れはベルネッティに傾き、彼らはクラリッサに絶対の忠誠を誓うようになった。
「我らの未来は、すべてクラリッサ様にございます……!」
こうして南部交易の血路は収まり、港は再び賑わいを取り戻した。
だが、真の勝者はただ一人――クラリッサのみだった。
第三の策 ― 王への報告
王宮に戻り、病床の王の前に進み出る。
クラリッサは深く頭を垂れ、整えた文書を差し出した。
「陛下。南部の紛争、解決にございます。
条約により王国の歳入は従来の一割増、安定は保証されました」
アルフォンス三世は震える手で文書を受け取り、目を通すと、かすかな笑みを浮かべた。
「……よくやった。王妃も王太子も、ここまでの結果は残せまい。
クラリッサ、お前こそが……この国の柱よ」
その言葉に廷臣たちが息を呑んだ。
病に伏す国王が“柱”とまで呼んだのは、もはや王権の半分を委ねたに等しい。
クラリッサは恭しく頭を垂れた。
だが赤い唇には、誰にも見えぬ冷酷な笑みが浮かんでいた。
(あはは……王の信を得た。これで我が権力は名実ともに国を縛る。
王妃は孤立し、王太子は傀儡。残るは……国王その人よ。
老いたその命が尽きる時、王国は私の掌に落ちるわ!)




