第六章 病床の王
王宮の奥、厚い帳が垂れた寝所。
病に伏す国王アルフォンス三世は、衰弱した体を横たえながらも、その眼光はなお鋭さを失っていなかった。
「……クラリッサ公爵令嬢を呼べ」
王命を伝えられた廷臣たちは困惑した。
表向きは失脚した令嬢に、なぜ国王が直々に声をかけるのか。
だが命には逆らえぬ。
やがて帳をくぐり、クラリッサが静かに進み出た。
その瞳の奥には元宦官の奸智が潜み、王の視線と交わる。
「……お前が、政務を担っておると聞いた」
低く掠れた声。だが、その問いは刃のように鋭い。
クラリッサは恭しく膝を折り、頭を垂れた。
「はい、陛下。王妃殿下と王太子殿下のご負担を減らすため、陰ながら務めを果たしております」
アルフォンスは咳き込みながらも、薄く笑った。
「……陰ながら、か。だが国境の税制改訂も、西方との停戦条約も、お前の手によるものであろう」
(……気づいているか。この老王、朽ちてもなお眼は死んでいない)
クラリッサは内心で驚嘆しつつも、表情には出さなかった。
「ならば試させよ」
王の声はかすれていたが、その場に重く響いた。
「三日のうちに、南部交易の紛争を収めてみせよ。
王妃も王太子も、もはや頼りにならぬ。……だが王国は生きねばならぬのだ」
沈黙の中、クラリッサはゆるやかに微笑んだ。
「畏まりました、陛下。必ずや王国に安寧をもたらしてご覧に入れましょう」
頭を垂れるその姿は、忠実なる臣下の礼を尽くすもの。
しかし心の奥底では、奸臣の狂喜が燃え上がっていた。
(あはは……ついに王その人が、私に頼るしかなくなったか!
王妃は孤立し、王太子は傀儡。
そして国王までもが我に縋る――これは玉座を奪う序章となるわ!)
その夜。
寝所を辞したクラリッサは月明かりの中でひとり嗤った。
「いいわ。王よ、あなたの課した試練を糧として、私はさらに深くこの国を握る。
次に孤立するのは――あなた自身よ!」
冷たい月光の下、赤い唇に浮かんだ笑みは、まさに暗黒の奸臣の凱歌であった。




