第四章 王妃孤立
王宮の奥深く、政務の合間に催された茶会。
王妃エレオノーラは優雅に微笑み、取り巻きの貴族令嬢や侯爵夫人を従えていた。
「――クラリッサ様、あなたもこちらへ」
婚約を破棄され、失脚したはずの令嬢を招く王妃。
それは表向きの慈悲であったが、実際には「見せしめ」である。
王太子の婚約者から失脚し、なお側近として働く哀れな姿を晒すためだった。
しかしクラリッサ――元宦官は微笑んで一歩踏み出した。
(王妃派は、数においては強固。しかし実利を与えぬ恩寵に縋る脆弱な集団にすぎぬ。
まずは一人、そして一人……外殻から削り落とせば、やがて王妃すら裸になる)
第一の手 ― 甘美な飴
茶会の帰り際、侯爵夫人の袖をそっと引き、耳元で囁いた。
「ご子息が軍の昇進を望んでおられるとか……私の署名権限で推薦状を整えることができますわ」
夫人は瞳を見開いた。王妃の庇護では決して得られぬ“現実の利益”がそこにあった。
翌日から夫人は王妃への出仕を減らし、政務室に頻繁に姿を見せるようになった。
第二の手 ― 静かな鞭
次は若き伯爵令嬢。財政難の領地を抱え、王妃に援助を乞うていた。
だが王妃からは曖昧な言葉しか与えられていない。
クラリッサは帳簿を差し出し、冷ややかに言った。
「このままでは三ヶ月で破綻いたします。……ですが、私が徴税制度を改訂すれば持ち直せましょう」
令嬢は震えながらも頷いた。
その日以降、彼女の忠誠は王妃ではなくクラリッサに向いた。
第三の手 ― 沈黙の網
侯爵、子爵、令嬢、夫人――王妃の周囲にいた者たちは次々に取り込まれた。
表向きは依然として王妃に仕えているが、実際の利害はすべてクラリッサが握っている。
茶会で囁かれる笑声は、もはや王妃ではなくクラリッサを中心に回り始めていた。
やがて、王妃エレオノーラ自身がそれに気づく。
「……おかしい。皆、私よりあの娘の言葉に従っている」
豪奢な玉座の間にいても、彼女の命令は空を切るばかり。
気づけば取り巻きはすべて、見えぬ糸でクラリッサに繋がれていた。
王妃を見下ろしながら、クラリッサは赤い唇に笑みを浮かべた。
「あはは……“慈悲深き王妃”の美名など、民を養うことも領地を救うこともできぬ。
真に人を縛るのは、利益と恐怖。
あなたが掲げた虚飾は、今や私の掌で粉々に砕けたのです」
王妃は蒼ざめ、唇を震わせた。
だがもはや彼女を守る盾は一人もいない。
そしてクラリッサは、心中で冷酷に嗤った。
「王妃よ、あなたは孤立した。王太子は無能、王妃は空虚……。
これで王国を縛る糸はすべて我が手にある。
次に滅ぶのは……お前たちだ!」
闇に響く笑声は、権力を掴み取る奸臣の勝利の凱歌であった。




