第二十六章 御子即位式
王都の大聖堂には、国内外の使節と貴族、教会の高位聖職者、そして群衆が押し寄せていた。
天を突く鐘の音が鳴り響き、聖壇の前に白布に包まれた揺籠が運ばれる。
その中に眠るのは――クラリッサの御子。
まだ言葉も知らぬ幼子であった。
だが群衆は涙を流し、口々に叫んだ。
「未来の王! 神に選ばれし御子!」
「クラリッサ様の血を引く者こそ、我らの君主!」
枢機卿が朗々と声を上げる。
「この御子は神に祝福されし後継者なり。
旧き王家の血は絶え、新しき血統が王国を導くであろう!」
そして、各地の諸侯が次々と壇上に進み出ては、揺籠に膝を折り、忠誠を誓った。
「この命、この剣を未来の王に捧げます」
「我らの領地は、御子の御代に帰属いたします」
隣国の使節までもが膝を折り、声を揃える。
「ヴァルデン王国は、この御子を正統なる王として承認する!」
教会と隣国、諸侯と民衆――すべてが揺籠の中の幼子にひれ伏していた。
壇上に立つクラリッサは、赤子を抱き上げた。
赤い唇に笑みを浮かべ、群衆を見渡す。
「――見よ、これぞ王国の未来!
この御子が新たなる王にして、神と民とを結ぶ絆である!」
群衆の歓声は嵐のように広がった。
「万歳! 新王に万歳!」
「クラリッサ様と御子に栄光を!」
その熱狂は、かつて帝国の宦官であった者が決して手にできなかったものだった。
夜。
政務室で、クラリッサは御子を揺籠に寝かせ、窓辺に立った。
「あはは……この国はすでに余のもの。
王冠は幼子に飾られ、だが実権はすべて我が掌にあるわ。
教会も隣国も、諸侯も民も、余を裏切れない。
かつての余は奸臣として滅んだわ。
だが今世の余は、王朝を築く母として名を刻むのよ!」
燭火に揺れる影は、母と奸臣、そして王朝の創始者――三つの姿を重ね合わせていた。




