第二十五章 御子誕生
王都の空を朝の鐘が震わせた。
その瞬間、宮廷の奥で産声が響き渡った。
「――生まれた!」
侍女が駆け出し、大広間で待つ廷臣たちに叫ぶ。
「御子様がお生まれになられました! 母子ともにご健勝にございます!」
その声に、廷臣たちは息を呑み、やがて一斉に頭を垂れた。
「神に選ばれし御子……ついに!」
王国の隅々まで、その報せは瞬く間に広がった。
市場では人々が涙を流し、農村では鐘が鳴り響いた。
「クラリッサ様の御子が誕生された! 未来の王だ!」
数日後。
政務室にて、クラリッサはアーベルと並び立っていた。
机上には新たな王冠の設計図と、即位式の次第が並んでいる。
「愚王は死に、旧き血統は潰えた。
だが、ただ御子を生んだだけでは王朝は完成しない」
クラリッサは冷静に言葉を重ねた。
「教会の認可、隣国の使節の列席、そして国内貴族の忠誠を誓わせる儀式。
すべて整えて初めて――御子の即位は正統となる」
アーベルは深く頷いた。
「すでに諸侯には召集の書状を送りました。
皆、恐怖と利で縛られ、背ける者はおりませぬ」
クラリッサは満足げに唇を歪めた。
王都の広場には「御子の即位」を祝う祭壇が築かれ、群衆が押し寄せていた。
「未来の王に忠誠を!」
「この子こそ、神に選ばれし御方だ!」
まだ揺籠に眠る幼子が、すでに“王”として扱われていた。
それは滑稽でありながら、恐ろしくも確かな現実であった。
夜。
クラリッサは眠る御子を抱き、静かに揺らしていた。
その横に控えるアーベルが囁く。
「クラリッサ様……この御子は、必ずや王国を継がれるでしょう」
クラリッサは赤い唇に笑みを刻んだ。
「あはは……これぞ余のの新たな治世。
帝国で失ったものを、今世で得た。
余は孤独にあらず、この子と忠臣と共に王国を築く……」
その笑みは、かつての冷徹な奸臣の嗤いではなく――
母と支配者を兼ね備えた、新しき“王朝の創始者”の微笑であった。




