第二十四章 廷臣たちの戸惑い
王の死から日が経ち、王国は混乱することなく動いていた。
その理由はただ一つ。
――すべてを采配するのがクラリッサであったからだ。
だが、廷臣たちは最近の彼女の言動に首を傾げるようになっていた。
「……クラリッサ様は変わられた」
「以前のような冷徹な刃ではなく、時折、民や兵の心を案じる言葉を口にされる」
「まるで――人間らしく、情を持たれたように」
恐怖に縛られていた廷臣たちにとって、それは不安でもあり、戸惑いでもあった。
ある日、飢饉に苦しむ農村から直訴があった。
従来ならば、形式的に処理し、搾り取るのが当然だった。
だがクラリッサは静かに言った。
「余が国を滅ぼすことは二度とあってはならぬ。
穀倉の備蓄を放出し、子らに食を与えよ」
廷臣たちは目を見開いた。
「クラリッサ様が……民の子らを案じられるとは」
「計算尽くではなく、本心で仰せのように見える」
夜、酒席にて。
廷臣たちの間で囁きが広がる。
「恐ろしいのは変わらぬ。だが、なぜだ……なぜ温情を示される?」
「もしや、御子を宿されたからか?」
「あるいは忠臣アーベル殿の影響か……?」
誰も答えを持たなかった。
ただ一つ分かるのは、クラリッサがもはや「恐怖だけの支配者」ではなくなりつつあることだった。
政務室。
窓の外で遊ぶ子どもたちの声を耳にしながら、クラリッサは独り言のように呟いた。
「あはは……廷臣どもは戸惑うでしょうね。
かつての余を知るならば、信じられぬ変化よ。
だが……悪くないわ」
赤い唇に微かな笑みが浮かぶ。
それは、恐怖と冷笑ではなく、ほんの一瞬だけ“母”の温かさを帯びた笑みであった。
廷臣たちはその変化に震えながらも、心のどこかで安堵を覚えていた。
――もしクラリッサが本当に人の情を持ち始めたなら、
この国はただ恐怖で支配されるのではなく、永きにわたり栄えるかもしれない、と。




