第二十二章 愚王の最期
王都の片隅、忘れられたような寝所で、レオナルド四世は一人でぶつぶつと呟いていた。
「これは……宝石か? いや、ただの石か? ……誰か、教えてくれ……」
床には無数の石ころが転がっていた。
彼はそれを拾い集め、宝石と呼んでは並べ、次の瞬間には石ころだと叫んで投げ捨てた。
「鹿が馬……石が宝石……余にはもう、何が真実かわからぬ……!」
その目は濁り、王冠は埃をかぶり、衣は破れ、もはや“王”の威光はどこにもなかった。
そんな王の傍らに、ただ一人だけ残っていた忠臣がいた。
幼い頃から仕え続け、愚王となってもなお裏切らなかった、老齢の騎士。
「陛下……」
彼は涙を浮かべながら見つめていた。
「なぜ、このようなお姿になられたのか……」
王は虚ろな笑みを浮かべ、手にした石を差し出した。
「これは……何だ? 宝石か? 石か? 余にはもうわからぬ……。
お前はどう思う、忠臣よ?」
老騎士は震える唇を噛みしめ、答えられなかった。
夜。
王は狂乱し、石を抱えて嗚咽していた。
「もう何も信じられぬ……! 余は王にあらず、何者でもない!」
その背に、静かに老騎士が歩み寄った。
腰の剣を抜き、震える手で構える。
「……お許しください、陛下。
この国のために、そしてあなたのために……もう終わらせねばならない」
王は振り返り、幼子のように怯えた瞳を向けた。
「終わらせる……? 余を……?」
老騎士の剣が閃き、王の声はそこで絶えた。
翌朝、宮廷に告げられたのは――
「国王レオナルド四世、病により崩御」
そう記録された。
真実を知る者は、ただ一人。
そしてその老騎士すら、すでにクラリッサの掌の駒だった。
窓辺で報せを聞いたクラリッサは、赤い唇に冷笑を刻んだ。
「あはは……価値あるものと無きものの区別もつけられず、狂気に沈んだ愚王よ。
その最期は、まことに我が道を照らすための供物であったわ。
王冠は空席、民は御子を待望し、教会も隣国も承認した。
――いまこそ、新しき王朝の幕を開けるのよ!」
燭火に揺れる影は、王国そのものを呑み込むほどに巨大であった。




