第十七章 絶望の玉座
王妃セレスティアが「病没」と記録されてから、王城は異様な静けさに包まれていた。
その死の真相を問う者はなく、問えぬ空気が全てを支配していた。
豪奢な玉座に座る新王レオナルド四世。
だがその姿は、かつての尊大な王子の面影すら失っていた。
「……セレスティア……なぜ……なぜ余を残して逝った……」
掠れた声が広間に虚しく響く。
従者も廷臣も遠巻きに視線を伏せるだけで、慰めの言葉を口にする者はいない。
もはや彼に仕える者は一人もいないのだ。
王は政務の場にも姿を見せなくなった。
日々、寝所に籠り、酒に溺れ、亡き妃の名を呼び続ける。
「なぜ皆、余を愚弄する……?
なぜ誰も、余の言葉に従わぬ……?」
だが答える声はなかった。
かつて王妃の笑みを誇りとした王は、今や孤独と恐怖に苛まれ、ただ虚ろに玉座を彷徨っていた。
その間も、政務室には山のような文書が積まれ、クラリッサが淡々と処理していた。
「北部の兵は安定、南部の商会は忠誠を誓う。
民は新たな後継を待望し、貴族は利に縛られた……」
彼女は赤い唇に冷笑を刻む。
「王はただの抜け殻。だが抜け殻も利用価値はある。
次の一手は――その口から『後継を定めよ』と吐かせることね」
夜、王は薄暗い寝所でひとり嗚咽していた。
豪奢な王冠は枕元に転がり、金糸の衣は酒で濡れている。
「……誰も……誰も余を見ぬ……」
彼の震える手は虚空を掴む。
王妃もいない、廷臣もいない、民の声すら届かない。
ただ一人、クラリッサだけが訪れる。
だがその微笑みは温かさではなく、冷ややかな支配の象徴だった。
「陛下……」
「……クラリッサ……余は……何をすればよいのだ……?」
「ただ一言。後継を定めよと仰ればよいのです」
王は嗚咽しながら頷いた。
その瞳には、王としての光はもうなかった。
クラリッサは心の奥底で、狂気の嗤いを抑えた。
「あはは……絶望しなさい、愚王よ。
お前の無力と孤独こそが、余の覇道を照らす松明なのよ!」




