第十五章 血統の改竄
城の奥、薄暗い回廊を進む影。
そこにいたのは、かつて王太子を奪い、王妃となった男爵令嬢セレスティアであった。
だが今や、彼女に従う者は誰一人いない。
王妃派の貴族は取り込まれ、残る侍女たちすらすでにクラリッサの密命を受けていた。
「どうして……どうして皆、私を裏切るの……?」
震える声は、返答すら許されぬ。
翌朝、王妃の居室からは冷たい亡骸が運び出され、宮廷の記録にはただ一行が刻まれた。
――“王妃セレスティア殿下、病没”
王宮は静まり返り、誰も真実を問うことはなかった。
問えば命を失うと、誰もが知っていたからだ。
その夜、政務室で地図と系譜を広げながら、クラリッサは狂気の笑みを浮かべていた。
「あはは……王妃は消えた。王は孤立し、玉座は空虚。
ならば次に必要なのは――“新たな血統”ね」
彼女は筆を取り、王家の系譜の末尾に新たな枝を描き足す。
そこには“新王の嫡子”と記されたが、実際には王の血ではない。
「この子は私の血を引く。私が生み、育て、王位を継がせるのよ。
王冠は無能な血統から奪い去り、私の血で塗り替える……」
燭火に照らされた赤い唇が笑みを刻む。
かつて帝国を滅ぼした奸臣は、今度こそ己の血を未来へと刻みつけようとしていた。
だが慎重な元宦官は、即座に実行には移さなかった。
(焦れば帝国の二の舞だ。民心も廷臣も、まずは“新しい後継”を受け入れる土壌を整えねばならぬ)
彼女は次なる計画を練り始める。
王を完全に傀儡化し、「後継を定めよ」と口にさせる。
庶民には「神に選ばれた未来の王」として、まだ生まれぬ子の噂を流す。
貴族には「血統よりも安定こそ国家の命」と説き、従わせる。
そして、玉座に座すのは――元宦官の子。
クラリッサは鏡に映る己の姿を見つめ、狂気の嗤いを浮かべた。
「かつて余は帝国を滅ぼした奸臣として名を残した。
だが今度は違う。
余は血を残し、王朝を築き、未来を永劫に掌握する。
王国は余のもの、そして余の子孫のものとなるのだ!」
燭火が揺れ、影が壁を覆う。
その影は、もはや“裏の支配者”を超え、新たな王朝の創始者となろうとする奸臣の姿であった。




