第十三章 愚王の暴走
新王レオナルド四世は、戴冠から幾月が過ぎてもなお、自らが“真の支配者”であると信じていた。
「王たる我が権威を示さねばならぬ! 戦だ、軍を動かすのだ!」
側近たちが青ざめる。
「陛下、隣国ヴァルデンとの協定が結ばれたばかりにございます……」
「戦は国庫を疲弊させ、民の怨嗟を呼びましょう……」
だが王は耳を貸さなかった。
「黙れ! 戦を望まぬならば、王冠を返せとでも言うか!」
(……ふむ。前世で擁立した二世皇帝と変わらぬ愚かさね)
クラリッサはその姿を冷ややかに見つめた。
王の命により、軍は国境へ進発した。
だが補給は不十分、兵は疲弊し、開戦前に行軍は行き詰まった。
報告を受けた廷臣たちは騒然となる。
「このままでは国境防衛すら危うい!」
「陛下のご判断は……」
その時、クラリッサが進み出た。
「ご安心を。すでに物資の補給路は私が手配済みにございます」
彼女は懐から新たな書状を差し出す。
そこには、南部商会と辺境領主が合同で補給線を維持する協定が記されていた。
印章はすべて整っており、軍は即座に再編された。
廷臣たちは感嘆の声を漏らした。
「クラリッサ様がおられなければ、軍は崩壊していた……!」
軍の混乱を収めたのは王ではなく、クラリッサの采配であると、誰もが理解した。
それでも王は声を荒げた。
「余の決断が国を動かしたのだ! 余が戦を望んだからこそ、補給が整ったのだ!」
だが廷臣たちの瞳は冷ややかだった。
“国を救ったのは誰か”――答えは明白である。
やがて民衆の間にも噂が広がった。
「新王は虚勢を張るだけ……」
「実際に国を支えているのはクラリッサ様だ」
レオナルド四世は王冠を戴いてなお、孤立していった。
夜。政務室で机に積まれた報告書を整理しながら、クラリッサは赤い唇に嗤いを刻んだ。
「あはは……愚王よ、お前の暴走は我が力を際立たせる舞台にすぎないわ。
私が救えば救うほど、民も廷臣も“王は虚”と悟り、“影”こそ真実と知る。
かつて二世皇帝を操り帝国を滅ぼした時は、愚王の狂気に呑まれた。
だが今度は違う。愚王の狂気すらも、我が支配の道具とする!」
燭火が揺らめき、影は壁に広がる。
その影こそ、王国を覆う真の支配者の姿であった。




