第十一章 民心掌握
大広場に、人々の声が渦巻いていた。
「税が重すぎる!」
「子らに食わせるパンも買えぬ!」
「この国は王族だけのものか!」
王太子時代の強権策は民の怨嗟を積み重ねていた。
だが王冠を戴いた今も、レオナルド四世はその叫びを理解しなかった。
「くだらん! 民の戯言など耳を貸すに値せぬ!」
その傍らで、クラリッサは静かに瞳を伏せる。
(……このままでは不満は爆ぜ、国は内から崩れる。
だが、こここそ私の糸を広げる好機だわ)
第一の策 ― 救恤令
数日後。
王宮から新たな勅令が発表された。
《王都および辺境の飢餓に対し、穀倉の備蓄を解放する》
《徴税を一部緩和し、農民の生活を保障する》
民衆は驚き、やがて歓声を上げた。
「陛下が……我らを顧みてくださった!」
「これまでと違う! 新王は慈悲深い!」
だが実際に署名と印章を押したのは、王ではなくクラリッサだった。
第二の策 ― 民への直訴
さらにクラリッサは「民衆が直接訴えを記せる投函箱」を城門に設置させた。
名目は「新王の改革」だが、その記録はすべてクラリッサの机に集まる。
「領主が税を搾り取っている」
「橋が壊れて通行できぬ」
「盗賊が村を荒らしている」
小さな声をすくい上げ、迅速に命を下す。
それは王国にとって前例のない“即応”であった。
民衆は次第に理解した。
――自分たちの声を聞いているのは「王」ではなく、「王の影にいる誰か」だと。
第三の策 ― 民心の収束
ある夜、王都の居酒屋で交わされた噂話。
「なあ、最近の改革は妙に的確だと思わねえか?」
「王様の御頭から出るとは思えねえな……」
「みんな言ってる。“公爵令嬢クラリッサ様”の仕業じゃねえかってな」
その噂は瞬く間に広がり、やがて「王国の真の救い手はクラリッサ様」という囁きが庶民の口に上るようになった。
政務室でその噂を耳にしたクラリッサは、赤い唇に笑みを刻んだ。
「あはは……表の玉座は愚王のもの。
だが民心はすでに我がもの。
この国は二重に支配されている――表に王、裏に私。
かつて帝国を滅ぼしたのは、民を見捨てた愚行。
だが今度は違う。民すらも我が掌に抱き、離さないわ!」
燭火に照らされたその笑みは、もはや玉座に匹敵する威光を放っていた。




