第十章 外交の舞台
王都の謁見の間。
隣国ヴァルデンの大使団が到着し、王国と新王レオナルド四世の力量を見極めようと、鋭い目を光らせていた。
レオナルド四世は豪奢な玉座に座り、胸を張って声を上げる。
「ヴァルデン王国よ! 我らの交易路を侵犯した件、謝罪と賠償を求める!」
大使たちは一斉に冷笑した。
「侵犯? その交易路は元より我が国の伝統的な往来である。賠償などあり得ぬ」
廷臣たちがざわめき、緊張が走る。
レオナルドの顔は真っ赤になり、机を叩いた。
「黙れ! 謝罪せねば開戦も辞さぬ!」
(……愚か者め。自ら戦端を開く宣言をするとは。これで外交は詰んだわね)
クラリッサは内心で冷笑しつつ、静かに歩み出た。
第一の策 ― 敵を籠絡
「陛下のお言葉、まことに王国の威を示すもの。
ですが、ここで血を流すことは双方にとって損失にございます」
クラリッサはしなやかに微笑み、大使の一人に目を向ける。
「……ヴァルデンにおける鉄鉱石の輸出、近年は不振と伺っております。
我が王国が輸送路を保証し、代わりに関税を調整する――そうすれば、侵犯の問題は“自然に解消”されましょう」
大使の目が細められた。
「……ほう」
それは譲歩ではなかった。
交易路の実権を握る代わりに、相手の懐を潤す――“飴と縄”の外交である。
第二の策 ― 味方を抱き込む
さらにクラリッサは側近を通じ、裏でヴァルデン商人の代表に密書を送る。
《新協定により利益を得るのは、あなた方の商会となる。王都に忠実であれば、今後も特権を与える》
こうしてヴァルデン内部に“クラリッサ派”が生まれ、やがて彼女の言葉こそが外交の実を決する力となった。
第三の策 ― 傀儡の王
数日の交渉を経て、新協定が締結された。
表向きは「新王の威光の下での勝利的外交」と発表されたが、誰もが理解していた。
大使たちは退席の際に密かに囁き合う。
「……この国の真の交渉相手は、王ではない。公爵令嬢だ」
「王はただの飾り。影にいるあの女こそ、我らの敵にして盟友だ」
夜。政務室で書状を整理しながら、クラリッサは静かに笑った。
「あはは……外交とは、戦よりも甘美な刃。
王太子ならば戦を呼んで国を疲弊させたでしょうね。
でも私は違う……敵を飴で縛り、味方を利で従え、国の内も外も糸で操るのよ」
燭火に照らされるその笑みは、暗黒の奸臣にして冷徹なる宰相のものだった。




