03 資源物を回収せよ
筆者はRPGゲーム未経験です。
ノリと想像だけで書いておりますので、どうか温かい目でお読みいただけると嬉しいです。
今日は娘の小学校行事――資源物回収の日である。
朝、まだいつもより早い時間。隣で眠る娘をそっと覗き込む。
布団の中で丸くなった小さな背中に、思わず微笑んでしまう。
「娘ちゃん、娘ちゃん、朝だよ。起きて」
小さな声で呼びかけると、布団の中からかすかにうめき声が返ってきた。
「……うー」
そうだよね。普段よりずっと早い。わたしだってもう少し眠りたい。
けれど、予定の時間がある。
「ママ、ママ、起きて」
――ん? なんだか聞き覚えのある声。はっと気づく。
あっ、私、また二度寝してた!
娘を起こすつもりが、逆に起こされている。
時間はまだ余裕がある。セーフ。心の中で自分を慰める。
軽く朝ごはんを食べ、着替え、歯を磨く。
鏡に映る自分の顔の横で、ステータスランプがちかちかと光っている。
「そういえば、最近このランプ、音がしなくなったな……」
――もしかして、ミュートモード搭載?
心の中で「ステータスオープン」と唱えると、目の前に今日のミッションが浮かんだ。
《今日の優先ミッション:資源物回収でカロリー撃退!》
「だよね……」
さあ、今日のクエストのはじまりだ。
息子の朝ごはんにラップをかけて夫に託し、娘と車に乗り込む。
学校に着くと、すでに先生たちが待っていた。地図を手渡される。
「娘さんのお家は、こちらの山の集落をお願いしますね」
地図を見ると、家の位置に苗字が書かれている。
しかし、よく見ると――
「あれ? “山田”が7軒……“田中”が8軒……」
同じ苗字の家が多すぎる。どこの家に回収に行ったのか、あとで絶対分からなくなる。
「え、屋号で分かる?」
いやいや、10年住んでいるけれど全部覚えていないし……。
うそ、もう権兵衛のとこのおとうさん、出発しちゃった。
先生は私よりもっとこの地域の屋号を知らない。困った私は、とっさに目の前の畑を見渡す。
あ、あそこに――。
「藤の屋のおばあちゃんだ!」
すぐさまNPCに話しかける。
「藤の屋のおかあさん、ここらの屋号を教えてください!」
おばあちゃんは笑いながら、一軒ずつ丁寧に教えてくれた。
地図に屋号をメモ完了。これでクエスト進行可能だ。
藤ノ屋のおばあちゃんと屋号で呼んでいるが、先祖代々の農家で商いはしていなかったそうだ。
屋号の法則がいまいち分からない。
車に乗り込み、いざ出発。道は狭く、山頂に向かう道路はほとんど崖っぷちだ。
「きゃー! 落ちる落ちる!」
助手席の娘がはしゃぎながらキャーキャー叫ぶ。
ママは運転に必死中。
娘といっしょに恐怖でキャーキャー騒ぐ。
「ぎゃー!怖いー!」
RPG風に変換されると、この道は「魔獣の谷底ロード」。
だから怖いって。
ホントに熊出るし。
ハンドルを握る手に汗がにじむ。
視界の端には、谷底に吸い込まれそうな木々。
しかし、心の中では密かに「カロリー消費ポイント加算」と呟いていた。
山頂の家から順に、段ボールや新聞紙、瓶や缶を回収していく。
道沿いの家はまだ楽だが、奥に引っ込んだ家は車を降りて歩く必要がある。
「これ、車に積み切れるかな……」
一瞬不安がよぎる。だが、空き家や、すでに小学校に持って行ってくれている家もあり、結果的には一回で積み切ることができた。
娘は手際よく動く。
私は三軒目でもう汗だくだというのに、彼女は軽やかに新聞紙を抱えて走っている。
「娘ちゃん、すごいなぁ……」
こっそり感慨ポイントを加算する。
小さな冒険の中で、親子の絆もステータスアップしている気がした。
学校に戻ると、回収し終わった子どもたちが一斉に車へ集まってきた。
どの子も冒険者ギルドの仲間のように素早く、所定の位置に資源物を並べていく。
「おっと、次の車が来た。移動しなきゃ!」
わたわたしているうちに、作業はあっという間に終わってしまった。
去年は私も娘も初めてで、右も左も分からなかったけれど、今年は娘がすっかり慣れていて頼もしい。
ああ、こういう瞬間に「子どもの成長」を実感するのだな。
先生たちが飲み物を並べ始める。
机の上には、オレンジジュース、リンゴジュース、カルピス、緑茶、麦茶などの飲み物がずらり。
あ、期間限定のマスカットサイダーがある。ゴクリ。
「わたし、取ってくる」
娘が走って行き、私の分も持ってきてくれた。
「はい、ママの!」
「ありがとう!」
高濃度カテキン緑茶
種別
希少補助アイテム/体質強化系
説明文
東方山岳地帯に自生する茶樹の葉から抽出された、高濃度魔導液。
翠緑の色を湛え、口に含むと体内の脂の魔素を効率よく燃やし、巡りを整える作用を持つ。
効果
脂肪燃焼:戦闘(運動)時の脂肪消費量を増加させる
脂吸収抑制:食後に摂取することで、摂取した脂の一部を封じる
代謝活性化:基礎代謝を底上げし、持久力を向上させる
血流改善:身体の巡りを整え、冷えや疲労回復に補助的効果
使用上の注意
過剰摂取は胃腸に負荷を与える
飲むだけで体型変化は起こらない。運動と食事管理との併用が必須
一度に大量摂取せず、こまめに服用すること
取得方法
東方山岳地帯の茶樹林で採取
商人から希少品として購入可能
レア度
★★★★★(非常に希少)
補足
ダイエットの旅路における頼もしい補助アイテム。正しく使用すれば、余剰脂肪を祓い理想の体へ導く。
「ママ、緑のお茶好きでしょ?」
「う、うん……ありがとう」
マスカットサイダーに意識を向けたことは黙っておく。
もともと緑茶大好きだし。ありがたい。
真面目な説明文で助かるかも。
娘は自分用に麦茶を選んでいる。
ジュース大好きなはずなのに、なぜかお茶を手にしている。
棚を見れば、まだけっこう残っているのに。
「娘ちゃんはお茶なの? まだジュースたくさんあるよ?」
「いいの。もう二年生になったもん。わたしお茶好きだし」
家ではお茶飲まないのに。
――これは下級生の手前「お姉さんぶりたい」気持ちなのかもしれない。
二年生、頑張ってるなあ。
胸の奥でじんわりとしたものを感じる。
幸福ポイントがぐんぐん上昇していく。
最後は、恒例の一本締め。
毎回子どもたちが楽しそうでいいな。
「ありがとうございました!!」
みんなの声が重なり、スッキリした気持ちで解散となった。
娘と手をつないで車に戻る。今日のクエストは無事クリア。
「ママ、頑張ったね」
「うん。娘ちゃんもよく頑張ったね」
《資源物回収クエスト クリア!》
消費カロリー:★★
幸福ポイント:★★★★★
母力ステータス:+3
達成感と心地よい疲労感。
体力は削られたけれど、娘の成長を見て心のHPは満タンだ。
日常の中に潜む小さな冒険。
これからも私は、この世界で戦い続けるのだろう。
――そう、万年ダイエッター主婦RPGの冒険は、まだまだ続く。
帰ったら、寝起き最悪の息子(3歳)が待ってるだろうなぁ…。