表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

02 小さな冒険と不思議な法則

筆者はRPGゲーム未経験です。

ノリと想像だけで書いておりますので、どうか温かい目でお読みいただけると嬉しいです。

夏の雨の日。

風邪がようやく治りかけの三歳の息子は、本日、保育園を休んでいた。


「静養」と呼ばれる時間は、三歳児にとって退屈の極みである。

お絵描きも、おままごとも、おもちゃ遊びも、動画サイトも、DVDも、そして私のポンポコ腹太鼓も――

どれもすぐに飽きられてしまった。


息子はついに、小さなドラゴン《癇癪》を召喚したかのように声を張り上げる。

「ぱちゃぱちゃするの! お外いくの!」


観念した母――万年ダイエッター主婦の私は、深く息をつき、マイカーに乗る。

目的地は近場のコンビニ。

保育園で使うハガキの購入と息子の気分転換が本日の任務だ。




駐車場に入り息子を車から降ろした瞬間、空気がわずかに変化した。

光は柔らかく、世界の色合いも微妙に異なる。

息子の笑い声は、どこか冒険心をくすぐる音に変化していた。


――これは、以前にも経験した感覚だ。


体重計でのRPG風の体験以来、私は理解しつつあった。

どうやら、私の小さな「クエスト」が始まると、世界は瞬間的にRPG風の異世界に変化するらしい。

クエストが完了すれば、世界は再び現実の日本に戻る。


今日のクエストは、「雨の日の小さな買い出し」である。

ただの買い物なのに、目に入るものすべてが「アイテム」や「モンスター」に見えてしまう。


コンビニの外観を見ると、いつもお世話になっている青いマークのコンビニが蒼き紋章の盟約小商店(某コンビニ)になっている。

「わお…」

これって私の頭が変換しているんだよね?

フランチャイズを盟約って訳すのかと、のんきに考えていた。



店内に入ると息子はすでに冒険者として行動を開始していた。

愛と勇気の顔の魔力凝縮菓(チョコレート)を見つけると、目を輝かせて要求してくる。

「お菓子はひとつまで」――これはいつもお買い物のお約束です。


私の視線は、甘味の泉《ドリンク棚》に引き寄せられた。

琥珀色の甘露ジュース、甘美な黒き覚醒と牛乳の妙薬カフェオレ

一口で幸福の魔法にかかりそうな誘惑である。


その瞬間、息子が私の三段腹に手を置き、無邪気に叫ぶ。

「ママのおなか~!」


――やはり今日も、私のお腹は小さなモンスターの遊び場であった。

羞恥心という隠し弱点が刺激され、内心のHPが削られる。


それでも私は、顔には穏やかさを保ち、店内の人々に向かって柔らかく声をかける。

「あらあら、お外でお腹を出してはいけませんよ」


ここは商品棚の角でお店のお姉さんには死角のはず!監視カメラは無視!

あぶなかった、もう少しで甘味の泉の誘惑に負けるところだった。

息子よ今回はグッジョブ、お腹出しは見逃がしてあげよう。


内心は汗ばむが、香り高い無糖の薬湯――東方の花茶(ジャスミン茶)を手に取り、気持ちを落ち着ける。


こうして本日の戦利品は――


羊皮紙ハガキ


愛と勇気の顔の魔力凝縮菓チョコレート


東方の花茶《ジャスミン茶》


ピコン、とステータス更新のアラームが鳴る。

本日の小さなクエストは、無事にクリアされた。




しかし、クエストはここで終わりではなかった。

会計後の息子が店から出たがらない。

お姉さんにありがとうのバイバイしよう、お店にもまたねしようか、素敵なものがたくさんあったね、また来ようね、この買ったコレ車の中で食べようよ、ママのど乾いちゃったお茶を飲もうよ等々。

すぐそこの駐車場に乗せるまでにじっとりと汗をかいてしまった。


息子の亀の動きに翻弄されつつ、ステータスを確認するように心を落ち着ける。


――どうやら、この世界では「小さな注意力」もステータスの一部であるらしい。

見守る力、指示を伝える力、落ち着いて行動する力――

すべて、母としてのステータスに直結する。


息子が手にしたチョコレートを食べる瞬間、その表情は真剣そのものだ。

小さな手が宝物を抱く様子を見て、心の中でステータスの回復を感じる。

幸福ポイント――確実に増加している。




帰り道、雨は弱まり、窓に落ちる雫は静かに光っていた。

ふと考えを巡らせる。


――クエストが始まると世界が変わるのは、“日常の小さな冒険”だけのようだ。


家事も、子どもの相手も、買い物も――

ちょっとした目的や課題が生まれた瞬間、私の目にはRPG風の情報が浮かび上がる。

しかし、クエストが終われば、現実に戻る。


これまで不意に現れた異世界体験は、すべてこの法則に沿っていた。


「なるほど……だから、体重計の冒険も、買い物の冒険も、あの小さな魔法も、同じ原理だ」


私は微笑み、心の中でステータスを確認する。

体力――十分に余裕あり。

精神――穏やか。

小さな冒険心――発動可能。


現実と異世界の境界


家に戻ると、雨は完全に止み、庭の緑がしっとりと光っていた。

窓から差し込む光で、世界は現実の日本に戻る。


息子は今日の戦利品のおやつを嬉しそうに食べ、


小さな日常の中で、異世界の記憶は静かに心に残り、私を少しだけ元気にする。


「今日のクエストは無事にクリア……疲れた、でも楽しかったかも?」

私はそっとつぶやく。


こうして、ちよは少しずつこの世界の法則に慣れ、

日常とRPG風異世界の切り替わりを自然に受け入れることを学ぶのだ。


明日もきっと、小さな冒険が待っている。

雨の日も、晴れの日も、子どもたちと過ごす毎日が、私にとっての本当の魔法――

日常の中のクエストである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ