表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
居酒屋領主館【書籍化&コミカライズ進行中!!】  作者: ヤマザキゴウ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/256

59.国王さまと飽食の夜

 国王は食べに食べた。


 確かに、ポンコツラーメンのマジィが言っていたように、この屋台街はどこもミニサイズを販売しているようだ。

 ラーメン、串肉、飴細工、またラーメン。国王はグルメ本の記載と匂いに誘われるがまま、次々と屋台を巡っていく。

 その食べっぷりは見事なもので、付き従う護衛たちも舌を巻くほどだ。ラルフは内心、呆れと感心の入り混じった溜息をついた。


 しまいには、冒険者ギルドにふらりと立ち入り、食堂で鉄板焼きまで食べていた。

 そこで意気投合した冒険者と「腹ごなしだな」などと言いながら、訓練所で木剣を用いた立ち会いまではじめてしまい、護衛たちもラルフもハラハラした。

 一国の王が、お忍びとはいえ、市井の冒険者と木剣を交えるなど、前代未聞だろう。万が一、怪我でもしたらどうなることか。


 しかし、意外なことに、国王は強かった。冒険者の猛攻を軽くいなし、要所で鋭い一撃を繰り出す。その立ち姿は、まさに歴戦の騎士を思わせるものだった。


 「ぜひ冒険者にならないか!」などと誘われ、国王はまんざらでもなさそうだ。

 まあ、クレア王妃も尋常ならざるお強さなのだから、その夫が弱弱なわけにもいくまい。

 それに、まさか国王が前線に立って戦うことはないにせよ、万が一の有事の際には、国のトップがあのような力量を持っているというのは、国民にとって心強いのかもしれない。



 そして、夕刻を過ぎて、居酒屋領主館で、国王もとい、ヴラドおじさんは、焼き鳥とフレーバービールでご満悦そうだ。カウンターに陣取り、次から次へと運ばれてくる料理と酒を堪能している。


 お忍びの国王の姿に気がついてしまった常連の木っ端貴族たちは、畏れ多くて近寄りがたく、気まずそうに席を離れていく。

 しかし、当の本人は全く気にする様子もなく、豪快に飲んだくれている。その姿は、まるで昔からの常連客のようだ。


「あ。あれ、あの人、国王さまよね?」


 さすがの元貴族であるエリカも、その正体に気がついたようだ。彼女は、厨房からカウンターの様子を窺い、わずかに顔を青ざめさせている。


「ほら、ご自慢のカレーをオススメして来いよ」


 ラルフは、意地の悪い笑みを浮かべてエリカに促した。


「い、いやよ」


 エリカは顔をそむけた。そういえば、こいつは王子に婚約破棄されて、奴隷落ちしたんだったな、とラルフは思い出した。なるほど、王族とは関わりたくないのかもしれない。


「ん?待てよ、じゃあ、フレデリックって、エリカのこと知ってたのか?」


 ふと疑問に思い、ラルフは厨房の片隅で静かに飲み物を飲んでいるチャーハン王子こと、第八王子のフレデリックに尋ねてみた。

 フレデリックは、一瞬驚いた顔をしたが、すぐに落ち着いて答えた。


「あっ、はい。兄上の元婚約者ですよね。実はお会いするのははじめてだったのですが、噂は聞いておりました」


 その言葉を聞いたエリカは、思い出したくもない記憶が蘇ったのか、ムスーっとした顔で顔を背けた。フレデリックは、そんなエリカの様子をちらりと見て、気まずそうに目を逸らした。


 国王はというと、カウンターの隣に座っていた商人風の男と、すっかり意気投合した様子で気さくに話しはじめている。「いやぁ、この街の飯は美味いな!特にこのフレーバービールとやらが最高だ!」などと、  

豪快な笑い声を響かせている。


 実は、その人、国王さまでしたぁ!


 と、いっそ暴露したらどうなるだろうか?

 と、ラルフの脳裏に、いたずら心が芽生えてしまった。

 国王がどんな反応をするのか、想像するだけで口元が緩む。しかし、さすがのラルフでもそれはやめておいた。後でアンナにこっぴどく叱られるのが目に見えている。それに、国王がこのロートシュタインを心ゆくまで楽しんでいるのなら、それで十分だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
エリカちゃんの元婚約者は第八王子の兄… ミエハル、ゲフン、ミハエル王子は第三王子、だから、 四、五、六、七の誰かという事か。ふむ。 エリカちゃん「詮索しないでください。」。゜(゜´Д`゜)゜。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ