表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/78

48.チャーハン王子と殲滅の魔導士

 ラルフは、アンナが持ってきた一冊の本を、信じられないものを見るかのように凝視していた。


「いや、だからさ。なにこの本? 『チャーハン王子と殲滅の魔導士』って」


 アンナは、そんなラルフの困惑をよそに、感心したように言った。


「相変わらず、カイリーは筆が早いですねぇ」


「筆が早いとか、そういうレベルじゃないよね? フレデリックがここに来て、まだ一週間だからね? なんでもう出版までこぎつけてんの? それになんなのこの内容? 俺とフレデリック君、こんな冒険した記憶ないよ?!」


 ラルフは、本の表紙と、そこに書かれた物々しいタイトルを交互に見比べた。

 描かれているのは、炎を操る魔導士と、中華鍋を構える王子の姿。どう見ても、自分とフレデリックをモデルにしているとしか思えない。


「魔獣の軍勢を目の前に、丘の上で二人が背中を預けあうシーンは、胸が高鳴りましたねぇ」


 アンナが、朗々と劇でも披露するようにクライマックスシーンを再現した。


(へっ、てめぇら全員、チャーシューにしてやるぜ!)

(けっ、不味そうな豚どもだ)

(最後に、もう一度、お前のチャーハン、食いたかったぜ)

(何言ってやがる! 帰ったらいくらでも作ってやる。その前に、こいつらをまとめて料理してやんねぇとな!)


 アンナの朗読に、ラルフは思わず身を乗り出した。


「あー。すげぇ、面白そうなバディもの。ちょっと読みたくなってきた。……いや、じゃなくて!」


 ラルフは、慌てて頭を振った。


「風評被害もいい所だ! フレデリックだって迷惑してるだろ?」


「どうでしょう。どんな形であれ、民衆が王族に対して快く思うのは、喜ばしいことでは?」


 アンナは、至極真面目な顔で言った。その言葉に、ラルフは言葉を詰まらせた。


「いや、まあ。どうだろ?」


「それに、ちゃんと書いてあるじゃありませんか?」


 アンナは、本の裏表紙を指差した。ラルフは、半信半疑で裏表紙に目をやる。


※この物語はフィクションです。劇中に登場する個人名、団体名は現実に着想を得た架空のものです。


「いや、言い訳がましいだけだろ、これ!」


 ラルフは、思わずツッコミを入れた。


「とにかく! カイリーを呼び出せ!」


 ラルフは、その場の混乱を収束させるべく、カイリーを呼び出そうとした。


「無理です。また王都に向かいました」


 アンナは、あっさりと告げた。どうやら、カイリーは次の取材のために、すでに王都へ向かってしまったらしい。


「むがぁーーー!⋯⋯ で、売れてるの?」


 ラルフは、自分の頭を抱えた。


「売れてますねぇ。ご覧のほどには」


 アンナは、にこやかに窓の外を指差した。ラルフが窓の外を見ると、そこには信じられない光景が広がっていた。居酒屋の開店を待つ、長蛇の行列だ。その列は、店から遥か遠くまで続いていた。


「殲滅の魔導士と、チャーハン王子に一目会いたいと、居酒屋の開店待ちの列ですね」


 アンナが、付け加えるように言った。その言葉に、ラルフは天を仰いだ。


「どうしてこうなった?!」


 ラルフの居酒屋は、意図しない形で、かつてないほどの繁盛ぶりを見せていた。そして、その原因は、他でもない、彼が作り出した「自由」な環境と、それに魅了された者たちの予測不能な行動の結果だった。ラルフの頭痛の種は、今日もまた増えるばかりだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ