表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
居酒屋領主館【書籍化&コミカライズ進行中!!】  作者: ヤマザキゴウ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/256

34.領主によるオーナーのスカウト方法その②

「陽だまりの木陰亭」。その名の通り、陽光が差し込む穏やかな宿屋は、二人の姉妹、ペニーとニニィが営んでいた。

 二年前に母親が他界し、二人は母が遺したこの宿を受け継ぐ決心をした。

 しかし、世間は厳しく、上手くはいかなかった。後に知ったのだが、母は生前、マクダナウェル商会という、あまり真っ当とは言えない商会から借金を抱えていたのだ。

 最初こそ母を恨みもしたが、後になって気づく。女手一つで娘二人を養うには、それしかなかったのだろうと。


 その日も、宿の経営は芳しくなく、二人は不安を抱えていた。


「お姉ちゃん! 誰か来た!」


 妹のニニィが、玄関の方を指差して叫んだ。


「ニニィ、あなたは隠れていなさい」


 姉のペニーは、咄嗟にそう指示した。こんな時間に宿泊客が来るはずがない。きっとまた、マクダナウェルの借金取りだろう。そう思い、彼女は固く扉を閉めた。

 そして、ドアから入ってきたのは、


「たのもー! 我こそは、ラルフ・ドーソン公爵であーる! 君たちは完全に包囲されている。無駄な抵抗はせず。おとなしく私に買い取られなさーい!」


 大仰な声と共に現れたのは、見慣れない青年だ。しかし、その身につけた服や纏う雰囲気から、ただ者ではないことが見て取れる。ペニーとニニィは、突然の言葉に呆然とした。


「えー!!!」


 二人の悲鳴にも似た声が響く。


「はははっ、ごめん、ごめん! 冗談。でもないかも? 事実、マクダナウェル商会から君たちの債務は私が買い取りました。はい。これ正式書類ね」


 ラルフは、そう言って一枚の書類を差し出した。そこに記された文字は、確かに自分たちの宿の借金が、マクダナウェル商会からラルフ・ドーソン公爵へと移っていることを示していた。


「えっ、あの、では。私たちは? この宿はどうなるんですか?」


 ペニーが、震える声で尋ねた。借金は公爵の手に渡った。次に何が起こるのか、全く予想できない。


「さぁ、どうなると思う? ケーッケッケッケッケッケ!」


 ラルフは、悪役のような笑い声を上げた。その顔は、楽しげだが、ペニーとニニィには、その意図を測りかねた。姉妹二人は、震えて青ざめた。



 場所を移して、領主館の執務室。ラルフは、腕を組みながら、満足げな表情を浮かべている。


「旦那様、借金取りか奴隷商に転職なさっては?」


 アンナが、呆れたように、しかしどこか真剣な口調で言った。最近のラルフの行動は、貴族のそれとはかけ離れたものばかりだ。


「何を言うか。気ままな飲食店オーナーほど良い仕事はないぞぉ?」


 ラルフは、飄々とした態度で答えた。


「あの、いえ。旦那様は、貴族で領主が本職ですからね?」


 アンナが、改めてラルフの立場を諭す。


「おっと、そうだった!」


 ラルフは、まるで忘れていたかのように、ポンと手を叩いた。


「で。あの姉妹の宿は、血のラーメンと、ウチのフランチャイズになるんですか?」


 アンナが、本題に戻るように尋ねた。


「まあ、そういうこと。宿よりはラーメン屋の方が営業時間が短いだろうし。今よりは楽になるはずだ」


 ラルフは、そう言って、今後の展望を語った。多重債務者を救済し、同時に自身のフランチャイズ網を広げるという、一石二鳥の戦略だ。


「スパイスラーメンの方は、グレン子爵が債務を買わせてくれ。との打診が来てますよ?」


 アンナが、新たな報告をした。


「なるほど。さすがグレン子爵。株式システムと同じように、債務も金になる可能性があることに気付いたか? まあいい。譲って差し上げよう。ウチが全部抱え込む必要なんてないしな」


 ラルフは、快く承諾した。グレン子爵の嗅覚は鋭い。彼もまた、ラルフのビジネスセンスに刺激され、新たな儲け口を見つけたのだろう。


「わかりました。手配します」


 アンナは、淡々と業務をこなしていく。ラルフの突拍子もないアイデアを形にするのは、いつものことだ。

 ラルフは、執務室の窓から、ロートシュタインの街並みを見下ろした。彼の頭の中では、すでに新たな計画が動き始めていた。


「さあ! 来い! ラーメンブーム!」


 ラルフの言葉が、静かな執務室に響き渡った。彼の手によって、ロートシュタイン領は、着実に、そして劇的に変化していく。それは、ただの領地改革ではない。この世界の食文化、ひいては人々の生活そのものを変える、壮大な企みだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あー、ラーメンフランチャイズが沢山増えれば麺の供給元である自分の工場が売り上げ爆増って寸法ですね。 汚い、さすが貴族汚い。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ