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居酒屋領主館【書籍化&コミカライズ進行中!!】  作者: ヤマザキゴウ


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13/258

13.たこ焼きと天才少女

 翌朝、ラルフは漁村の村長の家で目を覚ました。質素な木造の家屋は、貴族であるラルフが普段過ごす領主館とは比べ物にならないほど粗末だ。


 まさか、公爵家の一人息子が、酔い潰れて貧しい漁師の家に厄介になり、漁師たちと雑魚寝をするなど、常識では考えられないことだろう。だが、ラルフは全く気にする様子もなかった。


 頭上からは、昨夜の大騒ぎの余韻が残る、微かな潮騒の音が聞こえる。子供たちは、漁村の家々に散らばって厄介になっているらしい。村長いわく、昨夜は遅くまで子供たちのはしゃぐ声と「早く寝ろ!」という怒声が村中に響き渡り、久々に楽しい夜だったとのこと。


 ラルフは冷たい井戸水で顔を洗い、眠気を吹き飛ばした。

 朝食は、質素ながらも温かい焼き魚と麦飯だ。海の恵みと、村人たちの素朴な優しさが、疲れた体に染み渡る。食後には、漁師たちが使う縄編みを手伝った。

 

 不器用な手つきながらも、一心不乱に作業するラルフの姿に、漁師の一人が笑いながら言った。


「なんだか、貴族様だってこと、ふと忘れちまうだなぁ」


 その言葉に、ラルフは楽しそうに笑い返した。


 一通り朝の仕事を終え、浜辺で子供たちと遊んでいると、一人の少女がラルフの元へとやってきた。


 彼女は、この漁村の今年15歳になる娘で、昨日、たこ焼き作りに熱心に参加していた子だ。


「あの、領主様」


 少女は、少し緊張した面持ちで、おずおおずと話しかけてきた。


「なんだい?」


 ラルフが優しく尋ねると、少女は意を決したように言った。


「私、是非、あのたこ焼きで商売がしたいんです」


 ラルフは、その言葉に驚き、目を丸くした。


「ほう。それは面白いな。どうしてそう思うんだい?」


「だって、おそらく私は、誰よりも大量に作れると思うから」


 少女の自信に満ちた言葉に、ラルフは首を傾げた。誰よりも大量に作れる? たこ焼きは、生地を流し込み、具材を入れ、そして串でひっくり返す。それが基本的な作り方だ。数をこなせば、誰でも早く作れるようになるが、誰よりも、というのは一体どういうことだろうか。


「どういうことだ?」


 ラルフが問い返すと、少女はキリリとした表情で、ラルフの目の前にあった小さな石を指差した。そして、何も触れずに、その石がフワリと宙に浮き上がったのだ。


「これです」


 少女は、そう言って、さらに小さな石を二つ、三つと同時に浮かせてみせた。合計で六つの石が、彼女の周囲をフワフワと漂っている。

ラルフは、その光景に言葉を失った。


「まさか、君は……魔導適性があるのか! それも、サイコキネシスの使い手……!」


 彼の頭の中で、様々な情報が駆け巡る。サイコキネシス、つまり念動力。物体を直接動かす魔法だ。たこ焼きの鉄板を、手を使わずに自在に操り、一度に何十個ものたこ焼きを同時に焼く。それは、まさに革命的な生産効率を意味する。


「ああ、そうか。だから君は、『誰よりも大量に作れる』と言ったのか……!」


 ラルフは、興奮を隠しきれない。こんな才能が、こんな片田舎の漁村に埋もれていたとは。


「いや、いやいや! たこ焼きとか言っている場合じゃないから!」


 ラルフは、思わず叫んだ。たこ焼きで商売? そんな小さな話ではない。この才能は、国家レベルで育成されるべきものだ。


「君は、王都の王立魔導学園に行くべきだ! そこでもっと高度な魔法を学び、その才能を伸ばすんだ!」


 少女は、突然のラルフの言葉に目を丸くした。王立魔導学園。それは、彼女のような貧しい漁村の娘には、一生縁のない場所だと思っていた。


「で、でも、そんな……お金もないし、学園に行くなんて……」


 少女が、不安そうに言葉を詰まらせる。


「心配いらない! 王立魔導学園の推薦状は僕が書こう! そして、入学費用、生活費、諸々にかかる費用は、全て僕が持とう!」


 ラルフは、即座に決断した。この才能を逃すわけにはいかない。これは、領地にとっても、そしてこの世界にとっても、大きな財産となるはずだ。


「もちろん、賢者の塔への手紙も書かなければならないな。この才能を埋もれさせるわけにはいかない!」


 ラルフは、興奮冷めやらぬまま、アンナに指示を出した。アンナもまた、その少女の才能に驚きを隠せない様子だった。


 あれやこれやと、村長との話し合いや、少女の両親への説明などで、あっという間に時間が過ぎていった。少女は、最初は戸惑っていたものの、ラルフの熱意と、未来への希望に満ちた言葉に、やがて目を輝かせ、王立魔導学園への入学を決意した。

そして、一行は帰路につく。魔導車に乗り込み、海辺の道を走り出すと、潮風が心地よく吹き抜ける。


「やー。やっぱ海は良かったなー! また行こうな!」


 ラルフは、隣に座るアンナに、心底楽しかったとばかりに言った。アンナは、呆れつつも、その言葉に小さく頷いた。

街 道を吹く風を追い越しながら、魔導車は軽快に進んでいく。荷台には、子供たちが獲ってくれた魚介類や、新たな特産品となるカマボコなど、海産物のお土産がぎっしりと積まれていた。

 今晩、居酒屋領主館のメニューに載るであろう、それらの食材。


 ラルフの脳裏には、新鮮な海の幸を美味しそうに食べる客たちの笑顔が浮かんだ。そして、新たな才能を見つけた喜びと、この領地がさらに発展していくであろう未来への確信が、彼の胸を満たしていた。

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― 新着の感想 ―
公爵家の一人息子がって主人公は公爵でしょ。
まさしく『人財』発掘ですな。∩^ω^∩
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