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第八話 朝日

第一章


カズヤが手際よく起動試験の準備を進める。周囲には工具や部品が整然と並べられ、作業台の上には彼の設計図が広がっている。工房内には機械の微かな駆動音が響き、カズヤの集中した表情が真剣さを物語っていた。

「さて、まずは基本中の基本だ。セラちゃん、立ち上がれるか試してみてくれ」

電子音が小さく響き、セラはゆっくりと床に手をつきながら起き上がった。身体を支えながら立ち上がろうとするが、足元が不安定になり、バランスを崩してしまう。

「っ……!」

慌ててバランスを取ろうとするセラ。しかし、初めて動く身体はまだ馴染んでおらず、軽くふらついてしまった。

「無理しなくていいぞ、セラちゃん。最初は誰だってうまくいかねぇもんだ。」

カズヤは優しく声をかけながら、セラの様子を観察している。翔太も心配そうに見守っていた。

「難しいです……足元が、うまく制御できません。」

セラは申し訳なさそうに微笑んだ。すると、カズヤは何かを思いついたようにパチンと指を鳴らした。

「おっ、いいこと思いついたぞ!翔太、ちょっと待ってろ。セラちゃんにバランスを補助するパーツを付けてやる。」

カズヤは工具箱を引き寄せ、素早く設計図を描き始めた。目が輝き、まるで新しいおもちゃを手にした子供のように楽しそうだ。

「ジャイロ式バランス付き強化スタビライザーを作ってやるよ。これでバランスはバッチリだ!」

「ジャイロ式バランス付き強化スタビライザー?」

翔太が不思議そうに問い返す。

「そうさ。これを使えば、バランスを取るのがグッと楽になる。それだけじゃねぇ、脚力が2倍になる優れものだ! 実は構想は元々あったんだが、今回はセラちゃん用に少し改造を入れるだけで済む。プリンセスを使えばすぐに作れるさ。」

カズヤは設計図をプリンセスに送り、作業を開始した。機械が静かに動き出し、まばゆい光とともにパーツが完成する。

「これでバッチリだ!セラちゃん、さっそく試してみてくれ。」

セラに強化スタビライザーが搭載され、再び動作試験が始まる。セラは慎重に立ち上がり、動作確認を行う。

「うん、さっきより安定してます……えっ!?」

突然、セラの脚が急に強い反応を示し、制御が効かなくなった。次の瞬間――

「きゃあっ!」

セラは信じられないほどのジャンプをしてしまい、勢いよく工房の天井に頭から刺さってしまった。

「……。」

翔太とカズヤは一瞬言葉を失い、無言で見上げる。

「まさかとは思うが……これ、脚力2倍のせいじゃないよな?」

カズヤが眉をひそめながら呟いた。

「俺が何かしたわけじゃねぇよ!てか、セラ、大丈夫か!?」

天井に刺さったままのセラが困惑した声で答える。

「えっと……これ、ちょっと予想外です……助けてください……」

二人は顔を見合わせた後、吹き出しそうになるのを堪えながら、セラを助けに向かった。

幸いセラは無傷だったが、頭を撫でながら少し照れたように微笑む。

「ありがとうございます……もう少し制御を頑張ってみますね。」

翔太は安心して肩の力を抜き、カズヤも笑いながら頷いた。

「よし、今度は天井じゃなくてちゃんと床に着地するように頼むぜ、セラちゃん!」

工房には再び和やかな空気が戻り、次の試験が始まろうとしていた。


基本的な作動試験は無事に終わり、セラは動きを制御できるようになった。今後の細かい調整は定期的にカズヤがチェックアップしてくれることになり、一旦試験は終了する。

翔太はふとセラの衣装が気になり、視線を向けた。黒を基調とした、全体的にエレガントなデザインで、ハイネックのトップスから肩にかけてのスリットが特徴的だ。さらに、スカートは長めだが、動きやすさを考慮した切り込みが入り、ブーツとの組み合わせが洗練された雰囲気を醸し出している。どこか見覚えのあるデザインだ。

「なぁ、カズヤ。この衣装、どっかで見たことある気がするんだが……」

「お、気づいたか? ヨルハ2号B型、ニーアオートマタのやつを参考にしたんだよ。かっこいいだろ?」

「お前な……なんでまたゲームキャラの衣装なんだよ。」

翔太は呆れたようにため息をつきながらも、どこか納得してしまう自分がいた。

「だって俺の趣味だし、セラちゃんには絶対似合うと思ったんだよ!」

「まぁ……確かに似合ってるけどさ。」

セラは二人の会話を聞いて、少し首をかしげた。

「私は一般汎用戦闘型ではないんですけど……これ、コスプレなんですか?」

その言葉に翔太は思わず赤面し、慌てて言葉を返す。

「いや、コスプレっていうか……その、カズヤの趣味ってだけで……!」

カズヤは肩をすくめて笑った。

「まぁまぁ、セラちゃん。気にするなって。これも一つの新しい体験だろ?」

工房には穏やかな笑い声が響き、セラは苦笑いを浮かべながらも、彼らとの新しい日常に少しずつ馴染んでいくのを感じていた。


外に出ると、空はすでに薄いオレンジ色に染まり始めていた。朝6時、静かな街が徐々に目を覚ます。

「さあ、帰ろうか。」

翔太はセラの隣に並び、ゆっくりと歩き出す。

「はい。外の世界って、こんなに美しいんですね……空が輝いています。」

セラは感嘆の声を上げながら、空を見上げた。まるで新しい希望が広がっていくような景色が、二人の行く先を照らしている。

「セラと一緒だと、なんかいつもと違って見えるな。これからもっといろんな景色を見せてやるよ。」

「ありがとうございます、翔太さん。私も楽しみにしています。」

二人は穏やかな笑顔を交わしながら、静かに歩き続けた。

新しい一日が始まる中、人とAIが共に未来へと歩み出す姿が、朝の光に包まれていた。


第一章 完

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