第六話 プリンセス
第一章 出会い
カズヤは、旧型アンドロイドへセラを搭載する準備を始める。 工房の奥へと向かい、ほどなくして戻ってきた。
「翔太、こいつがアンドロイドとセラちゃんを結ぶガジェット、『マルチ環境適応デバイス』だ!」
マルチ環境適応デバイスと言われたガジェットは、明らかにカズヤの手が加えられていることがわかる。 翔太は一瞬不安がよぎる。
「これ大丈夫なんだよな? セラが消えるようなことはないよな?」
自信満々のカズヤ。何を言ってるんだとばかりに、翔太の肩をたたきながら、
「この天才を信じたまえ翔太君」
とキャラを変えてくる。
「このデバイスは、今までつながることのできなかった、様々なものを繋いできたガジェットだ。」
翔太は、カズヤがいざという時のために一応バックアップを取ってくれるというので、このままカズヤを信じようと腹をくくった。
ガジェットを介して、アンドロイドとセラが接続される。
「セラ、準備はいいか?」
「いつでもどうぞ!」
翔太とカズヤは小さくうなずく。
「セラちゃん、このガジェットを介してアンドロイド側の情報をセラちゃんの中へ送る。 受け取った情報をセラちゃんの中で再構築して、再構築後はそのままシャットダウンしてくれ。 その後の作業はこっちで引き継ぐから。」
ガジェットが青白く光り、データ転送が始まる。 かなりのデータ量があるらしく、しばらく時間がかかるようだった。
「よし、セラちゃんの再構築が終わるのを待っている間に、次の作業に取り掛かるぞ。」
カズヤは、3Dプリンター「プリンセス」の横にあるPCへ移動し、翔太を手招きする。
「外装パーツのデザインだが、翔太の希望はどうしたい?」
翔太は少し考えるそぶりを見せるも、デザインのイメージは決まっているようだった。
「今朝、ネクサス社の最新型アンドロイドのPR画像を見たんだが、あんな感じの人型にして欲しいんだ。」
「超高性能TPEを持ってきた時点でそうだとは思ったけどな。了解。 あと細かい好みは、長年付き合ってきた仲だ、よくわかってるから任せとけよ。」
カズヤはPCの3DデザインAIを立ち上げる。このAIをカズヤは「ジャービス君」と呼んでいる。
「おい翔太、俺の夢を聞いてくれよ。アイアンマンのガレージみたいな工房を作ることが、昔からの目標なんだぜ!」
翔太は呆れた顔で答える。
「お前、また映画の話かよ。現実見ろって。」
カズヤは笑いながら続ける。
「現実と夢の境目なんて俺にとっては関係ねぇんだよ。ジャービス君とプリンセスさえあれば、いつか俺だってアーマーを作れるかもしれないだろ!」
翔太は肩をすくめつつも、カズヤの情熱には少し感心している様子だ。
カズヤはジャービス君にデザインのプロンプトを次々と入力していった。
プリンセスが動き出した。
レーザーが複雑な軌跡を描き、まるで空間に新しい物質が生まれていくような光景が広がる。プリンセスは通常の3Dプリンターとは比較にならない速度と精度で作業を進めていた。
「見ろよ翔太、これがプリンセスの真骨頂だ! 1秒間に500層を積み上げるんだぜ。他のプリンターなら1時間はかかる作業だ!」
翔太は驚きの表情を見せる。
「すげぇな……本当に映画の世界みたいじゃねぇか。」
カズヤは自信満々に頷く。
「だろ? この工房は俺の夢と技術の結晶なんだ。いつか俺たちのプロジェクトが世界を変える日が来るかもな!」
翔太はその言葉に少し笑みを浮かべ、プリンセスの作業を見つめ続けた。
(こいつ、最初はただのオタクだと思ってたけど……セラのことをモノ扱いしないのはありがたいよな。)
翔太は内心でそう感じていた。カズヤは常にセラを「存在」として扱い、無理にコントロールしようとしない。その姿勢が翔太にとって何よりも信頼の証だった。
(こんな仲間がいてくれて、本当に助かるよ。)