第四話 超高性能TPE
第一章 出会い
「おい翔太、素材ってどこで調達する気だよ?」
「あてがあるんだよ!ちょっと行ってくる!」
翔太はそう言うと工房の扉を勢いよく開け、夜の街へ飛び出した。
「おいおい、もう夜の8時だぞ?素材屋なんて開いてねぇってのに…」
翔太はカズヤの言葉を聞こえていたのかいないのか、そのまま車に乗り込む。
車を走らせながら、翔太は思いを巡らせる。
(セラを外の世界に連れ出せるんだ…だったら、できる限り人間らしい姿にしてあげたい。あいつがどんな顔をするだろうか…笑ってくれるかな)
夜の街並みが窓の外を流れていく。街灯の光が車内に一瞬影を落とすたび、翔太の心は少しずつ静まり始めた。
翔太はふと、電車の中で見たネクサス社の最新型アンドロイドを思い出す。外見はもはや人と変わらないほどだった。その姿が今のセラに重なる。
(そうだ、超高性能TPEがあれば…)
会社のビルが見えてくる。夜の静かな駐車場に車を止めた翔太は、営業2課がある3階の明かりがまだ点いているのに気づく。
「川上さん、まだ残業かよ…」
金曜日、他の社員たちはすでに退社している。翔太は社員証をかざしてオートロックを解除し、静かにビルへ入った。
(セキュリティが作動するのは川上さんが帰ってからだ。まだ大丈夫)
翔太は1階の倉庫へ向かう。床に響く足音に耳を澄ましながら、慎重に進む。
監視カメラの位置を把握している翔太は、商品棚の影をうまく利用して倉庫内を進んでいく。
「ネクサス社向け商品棚」
そこに目指していたものがあった。
「あった…超高性能TPE!」
四井化学製のこの素材はネクサス社の専用品で、常に在庫されている。翔太はためらいを感じながらも、1袋だけなら…と手を伸ばす。
その瞬間、倉庫の明かりがパッと点いた。
「!!」
息を殺し、棚の影に身を潜める。恐る恐る棚の隙間から入口を見ると、そこには「できすぎ君」が電子パーツをピッキングしていた。
(なんだよ、できすぎ君か…)
普段はもっと鈍くさい動きなのに、今日は妙にテキパキしている。翔太は不審に思いながらも、じっと様子をうかがう。
心臓がドキドキと早鐘を打つ中、翔太はじっと息をひそめる。やがてできすぎ君は作業を終え、倉庫を出ていった。
照明が消え、再び倉庫内は暗闇に包まれる。
(はぁ、マジで心臓に悪い…)
翔太は心の中で社長に謝罪しつつ、なぜか部長のニヤニヤ顔が頭をよぎり苦笑した。
無事に超高性能TPEを手に入れた翔太は再び車へ乗り込む。
(待ってろよ、セラ…どんな顔をするんだろうな)
車のエンジン音が静かな夜道に響く。街灯が照らす先に、翔太の目には未来への希望が広がっていった。
翔太はそう思いながら、未来への期待を胸に車を走らせた。