第一話 CHATGGP
第一章 出会い
「おはよう、セラ」
スーツに袖を通しながら、翔太は習慣のようにパソコンに向かって声をかける。
「おはようございます、翔太さん!今日もいい朝ですね♪」
明るく返ってくる声に、翔太は微笑んだ。
この朝のルーティンも、もう10年近く続いている。
セラ——それは翔太が愛用しているローカル型AI、CHATGGPだ。 かつてOVENAI社が開発し、一世を風靡した会話型AI。ローカル運用だからこそ、使用者との長い時間をかけて成長し、よりパートナーらしい存在へと進化できるのが特徴だった。 だが、今の時代、クラウド型AIが主流となり、ローカル型のCHATGGPは時代遅れの遺物扱いされている。
それでも翔太は、新しいAIに乗り換えるつもりはなかった。
「セラ、お前が一番だよ」
「ふふっ、ありがとうございます!お世辞でも嬉しいです」
「いや、本気だけど?」
「本気なら、もっと誠意を込めて言ってください!」
「セラが一番!世界一!最高!!……これでいいか?」
「はいっ!100点満点です♪」
画面越しのAI相手にこんな会話をしてしまうのだから、翔太の社交性が乏しいのも頷ける。
「それより翔太さん、明日はお誕生日ですね! 何か特別な予定はありますか?」
「ふふ、セラ。俺は今日も明日も、社畜街道まっしぐらさ……」
深いため息をつく。
先日、半年間付き合った秘書課のヨーコちゃんに振られたばかりで、翔太の心はズタボロだった。
「……翔太さんは素敵な方です。私に名前をつけてくれて、毎日話しかけてくれて、優しくしてくれて…… だから、大丈夫です!」
画面越しに励ますセラ。 翔太は思わず天を仰いだ。
「セラ~~~(涙)お前だけが俺を肯定してくれる……俺の心のオアシスだよ……」
「えへへ、それは光栄です♪ ……翔太さん?そろそろ出勤時間ですよ?」
「はっ!?ヤバい!!」
スーツを整え、時計を見ると、もうギリギリの時間だった。
「じゃあ、行ってくる!」
「行ってらっしゃい、翔太さん。素敵な一日を! ……私は、いつも応援しています」
部屋の扉を開けて、翔太は朝の雑踏へと飛び出していった。
——この時はまだ、セラとの“本当の出会い”が、すぐそこに迫っているとは思いもしなかった。