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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【BL】曲の思い出

作者: さの


何の歌だっけ。

隣で歩いている友人と下らない会話を繰り広げながら、意識は完全に後ろにあった。懐かしく、少し古臭さのあるそれを、後ろを歩くもう一人の友人が今日も申し訳程度の音量で口ずさんでいた。

狭い歩道、奇数人のグループ。

特に決めたわけでもないのに、この道を通る数分間俺ら二人は前で、もう一人の友人は一人で後ろを歩いた。

どこで聞いた曲だったっけ。


「なぁ、木出山もそう思わね?」


隣を歩く宮本が後ろを振り返る。一瞬ぎくりと体が固まった。


「ああ、思う思う」


先ほどまで流れていたBGMが途切れ、代わりにニヤリと笑っているような、ケラケラと楽しむような雑な返し。

嫌だなと思う。

なぜかはわからないが、嫌だなと思う。

ただ友達と喋るいつものやりとり。こういう雰囲気も嫌いじゃなかったのに、最近の俺は少しおかしい。

曲が途切れたから? そんなに好きな曲だったっけ? じゃあなんで思い出せないんだ?


「いやだから、俺がさー」


言いながら、隣を歩く宮本が再び前を向く。それを合図に、後ろからはお馴染みのメロディがまた流れ出した。

たまに調子が外れるそれは妙に耳に馴染んで心地いい。

普段喋っている声とは違う甘いテノール。微かに聞こえてくるそれに、心の奥底が飽きもせずに騒めき始めたのが自分でもわかった。




「んじゃなー!」


ブンブンと腕がちぎれるんじゃないかと心配になりそうなほど腕を振り、宮本が一人で違う道を急ぐ。

方向が違う宮本とは、ここでお別れ。


ああ、今日の演奏会が終わってしまった。

木出山と話すのも嫌いじゃないが、最近はそんなことを思う。そのくせ、曲が聞きたいなら自分で歌うなり木出山に頼むなり方法はいくらでもあるはずなのに、どうしてかいつも俺は言い出せない。


「いやー、さっきの話笑ったなー」


先ほどの話が相当面白かったのか、振り返ると、木出山はまだ顔が緩んでいた。


「ああ、そうだな」


いやまぁ面白かったと思う。俺も宮本の話は好きだし。

でもあまり聞いてなかったから、あまりそこを掘り下げて欲しくない。


「でさー」


少し長くて緩い坂道を、今度は二人でたわいない話をしながら下っていく。

遅れてやってきた秋風を受けながら、目の前にのびた影をゆっくり追いかける。だのに、そこにはすぐに到着してしまう。


「じゃ、また明日な」


「ああ、またな」


下りきった先。丁字路。俺らもここでお別れだ。

宮下ほどじゃないけど、俺も手を振ろうとして、それは途中で止まった。


「あ」


「なに?」


木出山が不思議そうに俺を見つめる。

いつもの帰り道。人通りがないわけじゃない道。短いガードレール。車が時折横を通りすぎていく。

赤く染まった風景の中で、夕陽を受けた木出山の瞳が深い色を湛えながら、きらりと光っているのが印象的だった。


「いや、結構どうでもいい話なんだけど。いつも歌ってる歌さ」


「え、あー」


少し外れる目線と、微かに朱色がさされた顔。

自分から逸れてしまった瞳を、少し残念に思った。


「あれ、遊園地の曲だよな、と思って」


なんでこのタイミングなのか。きまぐれに思い出された古ぼけた記憶。電車に乗ればすぐに着く娯楽施設。閑散としているわけでもないが賑わっているわけでもない、地元の数少ない遊べる場所。


「あー、まぁな」


「好きだっけ?」


「いや、そういうわけじゃないんだけど。音が。まぁ」


遊園地には興味がないけど、その曲は好きってことかな。

それは遊園地でしか流れていない歌だった。この辺は遊び場が少ないから、大体の奴らは小さいころにその遊園地に一度は連れてってもらっているやつが多い。けどそれにしたって特に有名ってわけでもないから、本当に好きなんだろう。

俺は下に兄弟がいるせいか、他の奴らよりは行った回数も多い。思い出せたのはそのおかげもあるんだろう。


「俺、実は行ったことなくて」


「え。そうなの? じゃあなんで曲知ってんの?」


「昔、ホームビデオとか動画とか、友達んちで見せてもらったことがあってさ。そこで」


「ああ、なるほど」


少し恥ずかしそうに視線を外した木出山は、気まずそうに左肩に右手を置いた。


「じゃあ行く?」


「え?」


俺も俺の発言に驚く。でも同時にめちゃくちゃ良い案だなとも思った。


「いや、遊園地。多分、曲ちょっと違うし」


音もそうだが、多分、曲そのものもちょっと違う気がする。

すぐにわからなかったのは、それもあると思う。


「俺も遠い記憶のことだから、多分だけど」


そう言うと、木出山が考え込んでしまった。でもこいつは嫌なら嫌だとはっきり言えるやつだ。多分、もう一押しだ。

俺は何かに急かされるように、そうしなければならないように、木出山を説得する。


「その曲、好きなんだろ? 一緒に聞きに行かね?」


そういうと木出山はちょっとびっくりした顔をして。そして。


「ふは。はは、そうだな。行こうか。聞きに」


木出山が楽しそうに笑う。


「よし、決まりな!」


木出山の笑顔に釣られたのか、俺も嬉しくなって満面の笑みで返してしまった。

からりとした少し冷たい風に、遊園地は季節外れかなとも思ったが、そんなことが気にならないくらいに俺は楽しみにしているらしい。


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