刹那は貴方から始まる④
そして私は瞼の奥に浮かぶ彼に向けてあの日と同じ様に不意に手を伸ばしていました───その刹那、私の身体が温かさと共に優しい香りに包まれています。
(…………………?何が起きたのか、分からない)
なのに、どうしてか分からないけれどそれら全てを感じると瞳からは勝手に涙が溢れました。
堪能する様に伏せた瞼をゆっくりと持ち上げて瞳を開くと眩しい陽射しが差しました。涙で歪んだ瞳には現実はぼやけて映るのでハッキリとは見えません。でも私を抱き締めている腕に力が入ったのが分かります。そしてそれが誰なのかも。
「ア……ル…ヴァーニ…さ…ま」
離れて、顔を見て、言葉を交わしたい───そんな風に思っていても思いと体が取る行動はまるで裏腹で、体は言う事を聞かずにただ石の様に固まり、抱き締められたままでした。
そうして耳元で不意に囁かれた言葉───
「わたしの……妻に、なって下さい」
(!!)
その声が全身を駆け巡る様でした。
(話したい声が沢山、沢山あります)
(文句のひとつも言いたいのです)
(聞きたい事も…沢山…あって……)
(何よりもまず貴方の顔が見たい)
(もっともっと声が聞きたい────)
私の指は彼の服をぎゅっ、と力いっぱいに強く握って決して離しませんでした。
『もう離れたくない、離さない』と───
「お、遅かった、ですね…私、もう……もう、こんな…こんな歳で…」
涙に滲んだ声が、震えていましたが何とか言葉にしました。
「どんな…物好き、ですか……」
「わたし以外には…いないでしょうね」
(─────────っ!!)
私の両方の瞳からは涙が次から次へと溢れ出してきてしまい、もう息も満足に出来ない程でした。それでもひっくとしゃくりあげるのは何とか耐えて言葉を紡ぎます。
「……お待ち…して…おり…ました……っ」
そんなボロボロな状態でしたが声を引き絞る様に繋ぎました。
「待って…待っていました……あなただけを、」
「よくぞ待っていましたね。これからはずっと共に……」
私を真っ直ぐに見つめて、あの、逸らせない視線が交わって……アルヴァーニ様の口唇が私に重なりました。
優しく、熱を持つ、初めての口付けでした。
Fin(24/03/10)
お読み下さりありがとうございました。
初めまして、風祭伽羅と申します。
この度此方のサイト様でお世話になり、初投稿と相成りました。まだ右も左も分かりませんし、小説もまだまだ拙い書き方なので頑張りたい所存です。せめてお読み下さった方が時間の無駄だったとならない作品を執筆していきたいですね。
ご感想など頂けたら幸いです。お気軽にどうぞです。貴重なお時間ありがとうございました。
24/03/10 伽羅