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刹那は貴方から始まる②

突拍子もない事を申してしまったあの日から2年の月日が経っておりました。アルヴァーニ様は結局私の我儘な申し出を受け入れて下さったので、私は無事に彼の婚約者の立場になれました。


(私の家と縁続きになるのは彼にとっても有益になる事ではありますからね)


父や両家族、元老院の方々、関係者には『時期が来たら結婚する』と彼が上手く話を纏めて下さり誰の顔にも泥を塗らずに済んだので何も問題はありません。ただひとつあるとすれば『私が婚期を逃していく』と言う事だけです。




「ふふ、お父様ったらまだ私の嫁ぎ先を探しているんですよ。口を開けば世間話みたいにそんな話ばっかりなのでもう趣味や日課の様です」


「それで、嫁ぎ先は見つかったのですか?」


「ええ。素敵な方がおりました」


天気が良くて麗らかな空の下で私達は久しぶりの会瀬を交わしていました。


「それはそれは。おめでとうございます。物好きなお相手はどなたで?」


ニヤリ、と笑った彼は悪戯っぽい笑みを浮かべておりました。


「……意地悪」


「わたしを試そうなど10年早いですよ」


「物好きはどなたですか」


「わたし以外にはいないでしょうね」


くすくす、と見つめ合いながら笑い会える穏やかにゆったりと二人に流れる時間が私はとても好きでした。


そんな私達にしか分からない尊い幸せな時間も、ある時期を境に見事に崩れていったのです。


───聖女。


最高神が皇子殿下に下さった女神と呼ばれるその人の登場で状況は大きく変わっていきました。


辺境の部族が近くの町を襲った事件を始まりに、他の国とも戦争が起きました。そして度重なる皇帝陛下の崩御。目粉るしい時代の移り変わりを経て、アルヴァーニ様の皇子殿下は皇帝におなりになられたのです。


その様な最中ににアルヴァーニ様がお側に控えるのは当然で、渦中におられる彼が多忙になるのも当然で、満足にお姿も拝見する事も叶わないまま格段に危険を伴う立場になった彼の無事を願う事しか出来ずに年月だけが経っておりました。


(最近ではもう、お父様も私の花嫁姿を見る事を諦めた様ですね)



「お前は……まだアル・ヴァーニ殿を待っているのか」


「ふふ、どうなのでしょうね。ただもう………忘れられているかもしれませんから。アルヴァーニ様にとって一番大切なのは、昔から陛下ただお一人ですもの」


「……お前はそれで良いのか」


(お父様はとても悲しげな瞳を湛えている)


『親不孝をしてしまった』と自覚をすれば父に向ける顔がありませんでした。


「お父様………アルヴァーニ様は私に指一本触れていないのですよ。いつも逃げ道を下さっていたのです。だから、私は、私の意思で彼をお待ちしているの………例えそれが叶わなくとも」


溜まらずに瞳を伏せました。


(彼の名前を口にするだけで、胸が苦しくなるのは何故なのでしょう)


そうしている私を無言で優しく包んで下さる腕がありました。その時父の涙を───初めて見ました。


「お父様……ごめんなさい………」



(24/02/17)

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