出戻り聖女
初投稿なので、温かい目で見守ってね。
「やった! 成功だ!」
私は気が付けば、冷たい大理石に囲まれた少し狭い一室にいた。
「あれ? ここどこ? 実家に戻って来ていたはずなんだけど」
見慣れない景色に驚いた私は、座っていた床を見遣る。そこには、光る魔法陣が書かれてあった。
「何この光……」
複雑な模様をした魔法陣を見つめ、呆然とする。
「これで我が国は安泰ですな!」
「皆の者、ご苦労であった」
「先ずは宴の準備をせねば!」
声を耳にした私がふと顔を上げると、部屋の隅に並んで立つ複数の男性達が、大きな仕事をやり遂げたと言わんばかりに労い合っている様が目に入った。声は日本語なのに口の動きが伴っておらず、吹き替え映画を観ている錯覚に陥る。
彼らの服装は皆現実的では無いデザインをしており、まるでコスプレ集団のようであった。生地はどれも高級そうで、襟や袖等に複雑な刺繍が施されている。装飾品のデザインはどれもシンプルに見えるが、幾つもの宝石が散りばめられていた。
顔は彫りが深く、西洋の彫像の様に誰もが整いすぎているせいか、現実味を感じる事ができない。
私はクラリとした頭を片手で支えつつその場に立ち上がり、一歩横に移動してから魔法陣の全体を見回す。
「聖女様、我々の言葉は分かりますか?」
男達の中の一人である初老の男性が話し掛けてきたが、私は魔法陣に釘付けだ。
「あの……聖女様?」
「……」
「どこかお身体が優れないのですか?」
「……」
私はその場にしゃがみ込み魔法陣の一部を指先で触れ、それらを軽く撫でていく。すると、触れた部分の模様が僅かに揺らいだ。
「あぁ、麗しい乙女よ。其方の名を教えてくれぬか?」
初老を助けるように、金髪碧眼の中世的な美貌を持つ青年が一歩前に出て来て、私に話し掛ける。私は魔法陣から目を離さずにこう答えた。
「私は乙女じゃないですよ。バツイチだし」
「ばついち?」
この世界には『バツイチ』という言葉は無いのだと察した私は、簡単に説明をする。
「バツイチ……つまりは、一度結婚して離婚した人の事を言うの。だから、私は乙女じゃないんだけど本当に聖女なの?」
私の問いに初老の男性が教えてくれた。
「問題ありませんよ。浄化能力と乙女の関係性は、特に無いと言われておりますから」
バツイチの意味を理解した青年は一瞬顔を引き攣らせたが、直ぐに表情を取り繕い片手を差し出し、私に近付きつつキラキラな笑顔でこう囁いた。
「初めまして、私は「ちょっと魔法陣から離れてっ!」……え?」
私は、魔法陣の模様を一通り撫で更に文字を小さく付け足し、その場で立ち上がり大きく背伸びをしてからこう答える。
「えっと、多分これ異世界召喚ですよね? 私花子って言うんですが、聖女って言葉を聞いて大体理解しました。すみません、私の世界には魔法とか無いので魔法陣に魅入ってたんです。それでこのままでいいので、この世界の現状を教えて下さい」
「おぉ! 何と聡明なお方だ!」
初老の男性は、感動しているようだ。しかし美しい青年は、言葉を遮られた事が気に入らなく一瞬眉を寄せる。私は青年を無視して初老の男性に話を促した。
「実はこの世界に魔王が生まれまして、魔物が活発になり瘴気が世界を覆い始めているのです」
「ふむふむ」
「魔王誕生に合わせて聖女を召喚するのが慣わしで、三十人の魔法使いが一斉にそちらの魔法陣に魔力を捧げ、貴女様を召喚した訳でございます」
「それで?」
「それと同時に勇者の力も何処かで覚醒しているでしょう。是非世界の何処かにいる勇者を探し出して共に旅をし、世界の瘴気を祓いつつ魔王を撃ち倒して欲しいのです!」
「成程、話は分かったわ」
「おぉ! では……!」
私は大きく頷き、ニッコリと微笑んだ。皆は私の反応に安堵の息を吐き、先ずはお部屋に案内しますと促してくる。しかし私は、片手を前に出し皆の動きを止めた。
「事情は分かったけど、それで私が拉致されて知らない世界の人達の為にこの命を賭ける理由にはならないよね?」
「「「「「なっ!?」」」」」
私は足元から徐々に注ぎ込んでいた魔力を一気に魔法陣へと叩き込む。
「誘拐は犯罪よ? と言うわけで、帰らせてもらうから」
「「「「「はぁ!?」」」」」
「バイバーイ!」
魔法陣が大きく光り、私は光の粒に飲み込まれその場から消えた。
青年が慌てて手を伸ばしたが、見えない壁に阻まれ何もできなかった。
「ど……どういう事だ!?」
「まさか帰ってしまわれるとは……」
「わ……我々はどうすれば良いんだ!?」
その後この世界の人達は、勇者を筆頭に国中が団結をして魔王へと挑むのであった。
花子は勿論偽名です。
彼女は魔法陣の文字と異世界の人々の言葉で「言語翻訳」のチートを手にしたと理解しました。
一応、あの国の人達は結構マトモです。ちょっと聖女に依存しているだけで。