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 鮮やかな透き通るような空が頭上に広がる。

 眩しいほど太陽が輝きを放ち、まるでこの空全部がリンドルムのようで口元が緩む。


 教会の扉の前で息を整えると、父が涙ぐみながら私に腕を差し出した。


 開かれた扉の先にいるリンドルムを目にして、あまりの美しさに彫刻か絵画かと目を疑った。


 え、なんだあれ。格好良すぎないか? 

 なんで輝いてるんだ。これは白昼夢だろうか。


 見惚れたまま、彼だけを見つめて一歩ずつ歩みを進める。


 あちらこちらから啜り泣く声が聞こえて、小さく笑みをこぼした。

 泣いているのは家族はもちろん、アッシュやジェイムズもだろう。


 リンドルムの元へ辿り着くと、「綺麗だ」と蕩けそうな微笑みで告げられた。

 それと同時に背後で女性の悲鳴が聞こえて思わず彼を睨みつける。


「その顔、他のやつに見せるな! また私宛に脅迫状が届くだろう!」


「ふっ、くく、悪い。さあ、行こうか」


 当時のあれこれを思い出したのだろう。

 楽しげに笑いを溢す。


 ああ、もう。その顔ですらみんな見惚れると言うのに。


 ヴェールで隠された中で頬を膨らませた。


「セリーナ。機嫌を直してくれ。君が綺麗すぎて、こんな美しい女性が俺の妻なんだって思ったら浮かれてしまったんだ」


「なんかこの半年で随分と口が上手くなったな」


「許してくれないのか?」


「初めから怒ってない」


 ふ、と笑い合う。


 そうして神の前で永遠の誓いを立て、口付けを交わした。

 




 結婚式とその後の立食パーティーも恙無く終え、邸に戻る頃には夕闇が迫っていた。

 それなりに体力はある方だと自負していたが、自分達が主役となると見られる緊張からか普段以上に体は強張っていたようだ。自室に戻るとどっと疲れを感じた。


 普段通り湯浴みを頼むと侍女たちにいつも以上に磨き上げられた。


「なんか今日はいつもより念入りじゃないか? この香油もいつもと違う良いやつだよな?」


「ふふ。そうでございますね。奥様」


「今夜は特に念入りにしなくてはなりませんもの」


「ん?」


「まあっ、まさかお忘れでございますか?」


「そんなはずありませんよね? でもセリーナ様ですし」


「えーと、何かあったか?」


「今夜は初夜でございます。半年前、旦那様とお約束されていたではありませんか」


「っ!?」


 バシャンっ、と大きな水音を立てて浴槽に沈みかけた。

 慌てた侍女たちに引き上げられ、少し飲み込んでしまった水を吐き出す。


「ぅ、げほっ、しょ、しょや……いや、でもリンドルムも忘れてるかも」


「「ありえません」」


「疲れてるし今日はやめにするかも……」


「「ありえません」」


 二人して声を揃えてバッサリと切り捨てる。


「こ、交渉の余地はあると思うか……?」


「はっきり申し上げても?」


「や、いや。悪い。わかってる……」


 早鐘のように打ち始めた鼓動に、早くも逃げ出したい衝動に駆られた。

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