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「さて、セリーナ。そんな質問をするってことは俺に何か言いたいことがあるんだろう? 是非とも聞かせてもらいたいものだが」
期待するような瞳を向けられて、さすがにもう観念して項垂れた。
とてもじゃないが顔を見て言えそうもない。
「わた、しは……死んだと思った時、怖かったんだ。お前にもう会えなくなるんだって……思って」
「ああ」
「ずっとカーディルとして、親友として笑って欲しいんだって思ってた。
でも、違った。
カーディルの記憶の中で見たリンドルムの笑顔に……一目惚れ、してたんだ」
腰に回された手がピクリと動く。
続きを促すように、何も言わないリンドルムにいっそのこと自棄になって叫ぶ。
「私も好きだ! 好きに決まってる! じゃなきゃ、あんな邪険にされても付き纏ったり出来るもんか!」
反応を見ることもできずに目を強く瞑って、胸元にしがみつく。
「わ、私はカーディルと違って嫉妬深いぞ!? カーディルにだってこの記憶を返したりしなかった! 元のセリーナに戻れたかもしれないのに、カーディルの記憶の中のお前も私のものだから、誰にも……渡したくなくて」
「……嬉しいことを言ってくれる」
言葉通り嬉しそうな響きを宿して耳元でささやかれる。
「そ、それに令嬢らしくも振る舞わないぞ?」
「そのままの君が一番可愛い。社交の場だけ取り繕えればそれでいい」
「カーディルを利用してお前に近づいたりする女だぞ!?」
「君から来てくれたことは俺にとって幸運だった」
「あ、あとは……」
「あとは?」
ええい、ここまで来たら全部言ってしまえ!
躊躇っていた最後の願いを吐き出す。
「私と同じくらい好きになってくれないと嫌だっ!」
「それは無理だな」
「……え?」
なんて言われたか理解すると絶望感に襲われる。
身を離して呆然と見上げると、愛おしむように額にキスされた。
「君が思う以上に。君よりもずっと。俺の方がセリーナを愛してる」
「は、……ぇあ、っ、うぅ、分かりづらい言い方すんなって言ってるだろっ……!」
一瞬泣きそうになったのを隠すように俯くと、つむじにもまたキスを落とされる。
「今夜はたくさんキスをしよう。俺の想いが余すことなく君に伝わるように。どれだけ重たいかを思い知ってくれ」
「ま、まて、きょ、きょうはなにもしないって……」
「何もしないとは言っていない。最後までしないと言っただけだ」
「騙したのか!?」
「勝手に勘違いしたのは君だ」
「お、お前はいつもいつもここぞと言う時のやり方が汚いんだよ! 何でそんな腹黒なんだ! 私を騙してそんなに楽しいのか!?」
「ああ。とても。愛しい女が困ってる姿を見るのは正直ゾクゾクする」
恍惚とした表情を浮かべるリンドルムに顔が引き攣る。
「こ、拗らせすぎじゃないか……!?」
「なんとでも。……ほら、セリーナ。今夜はキスだけさせてくれないか? ただ頷いてくれるだけでいいから」
「っ、や、やだっ……さっきから何回も勝手にしてるじゃないかっ! 今夜はもうしないっ」
羞恥に涙を浮かべてベッドの上で後退るが、即座に腕の中に戻される。
「あぁ、本当にその顔たまらないな」
「お、おまえ、そんなしゅみが……」
「君限定でな」
細められた瞳に見つめられた瞬間、捕食されると思った。
乱暴な奪われるようなキスに翻弄され、くたっと力が抜ける。
「っ、ふ、ぁ……」
「夜は長い。加減はするから、な? セリーナ。ーー頷いて」
リンドルムの甘い声が魔法のようにまともな思考を奪っていく。
本当にもう、こいつは。初めから私を逃すつもりなどないんじゃないか。
青い空色の瞳を見つめて、精一杯の好きだという気持ちを込めて頷いた。
今はリンドルムに溺れてしまいたくて、縋るようにその背中に腕を回す。
何度も囁かれる愛の言葉に、確かな幸せを感じて唇を合わせた。