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「えっ、……え?」
目を白黒しているとリンドルムの顔が近くなり、唇にそれが押し当てられた。
「んぅ!?」
後頭部を支えられて、顔を動かすこともできない。
戸惑いから目を見開いて何も反応することができないでいると、唇を割って生暖かいものが差し込まれた。
「んっ、んんーーーーーっ! り、りんろるむっ! やっ、め……!」
口内を蹂躙され、目の前の顔の整った男の肩を掴んで押し返すが全く手に力が入らない。
近くで響く水音で頭がクラクラしてくる。
執拗に私の舌を追いかけてくるのを逃れようとするが器用に舌を絡めて吸われる。
どうにか引き離そうと髪の毛を掴んで引っ張ったが何の効力もなく、翻弄された今はただリンドルムの首に腕を巻きつけて縋り付くだけになっていた。
「っは……ぁ……」
ようやく解放されて酸素を求めて息を吸い込む。
首に回した腕は、まるで自分からキスをねだってしがみついているようにはたからは見えるだろう。
それに気づいた途端、勢いよく距離を取るが腰が抜けていてそのまま下にへたり込む。
ぎゅっと自分の体を両手で抱きしめて涙で潤んだ目で睨みつける。
「な、な、なななななんだ!? 何するんだ! この馬鹿! 変態め! お前親友に手を出すのか!?」
「妻だ。手を出して当然だろう。愛らしかったんだから口付けた。それの何が悪い」
これっぽっちも悪びれる様子もなく膝をついて真顔で私と視線を合わせる。
「うあぁぁぁ! あ、あい!? 愛らしいっ?! お前本当にリンドルムか!?」
「だってそうだろう? 俺に名前を呼んでほしかったなんて可愛らしいことを言われて我慢できるか?」
羞恥で身を縮こませ震えると、リンドルムは喉を鳴らして笑う。
あぁぁぁ、なんで今日はこんなにサービスしてくれるんだ!?
確かにお前の笑顔が見たいとは言ったが、許容オーバーだ!
それにこんな甘いのではなく、もっと、こう、カーディルに向けるものしか想定していなかった!
リンドルムの笑顔に耐性のない私はもう既にふらふらだった。
「そこまで騒ぐ元気があるなら今夜は朝まで頑張れそうだな」
「しない! しないしない、しないからな!? 結婚式するならその夜が初夜だ! やめろよ!? 絶対それまで手を出すな!」
「そう言われると出したくなるな」
「ロリコンって呼ぶぞ!? 騎士なのに犯罪者になるぞ!」
「妻に手を出して犯罪になるわけないだろう」
「や、やめてくれ……ほんと気持ちがおっつかない」
ああいえばこういうリンドルムに息も絶え絶えに涙目で訴えると満足そうに笑い、床に座り込む私を抱き上げる。
「それもそうか。君が昏睡状態だった半月の間は俺も気持ちを固める期間だったとも言える。まあ、実質婚姻準備と根回しに奔走していただけだが」
「だ、だろ? だろ? だから今日はーー」
「半月待とう。それで対等だ」
まるで貴公子のようにキラキラと輝いた、それはそれはいい笑顔だった。
反論は許さないと顔面の圧が私を萎縮させる。
「え、いや、でも……」
「異論は認めない」
「待って……」
「待たない」
「り、リンドルムっ……」
「ふむ。なら、代わりにお願い事がある。それをやってくれるなら結婚式まで最後まではしない」
「やるやる! 何をすればいい!?」
食い気味にリンドルムの襟元を掴みながら問いかけるとため息をつかれた。
「本当にお前と言うやつは、何でそんなに無防備なんだ……」
「よ、よく分からんが大丈夫か? 重いならおろしてくれていいぞ? そろそろ立てそうだ」
酷く疲れたようなため息に、気遣わしげに頭を撫でる。
それにリンドルムは苦笑を浮かべて「軽いからこのままで大丈夫だ」と額に頬にとキスをしていく。
驚きで瞬きも忘れて固まった。