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「それで今夜が初夜に当たるわけだが、いいか?」


「っ! げほ! はっ? はっ!? おま、何、え、何て!?」


 突然の発言に咽せた。

 早鐘のように脈打つ心臓にどうやって呼吸をしたらいいのかわからなくなる。

 赤く染まる顔を隠すように片手で覆って、もう片方の手をリンドルムに突き出す。


「不安にさせるのは主義に反する。君を抱けると証明するのは早いほうがいいだろう」


「不安になってない、不安になってないから!! あ、いや、なってたから聞いたわけだけど、それとこれとは話は別だ!」


「心配するな。優しくしよう。まだセリーナは本調子ではないだろうからな。ああ、そうだ。半年後に式を上げることになっているからそのつもりでいてくれ。半年後ならまだそこまで腹も大きくなってないだろうし、ドレスの調整もどうにかなるデザインで依頼しているから、何も気にすることはない」


 あまりに露骨な言い方に羞恥で顔だけでなく首筋まで赤く染めた。


「り、リンドルム!」


「死ぬまで……いや死んでも離さないからな。それから離縁は絶対に認めない。

ーー頼むから今度は俺より先に死んでくれるなよ」


 切実な思いが込められた一言と共に優しい手つきで私の手を取ると、指先にそっと口付ける。


 その憂いを帯びた色香に思わず後退りしてしまった私の腰をぐいっと引き寄せられた。


 おかしい。どうしたんだろう。

 リンドルムはこんなお子様相手にしないと言っていたのに。


「そ、それは本当に悪かった。今後はそのような事にならないようにと思っているが」


「"思っているが"?」


「状況次第というか。やはり見捨てる事はできないし、極力身の安全を確保してからにしようとは思うが、やはりどうしようもない時ってあるし……」


「なるほど。反省の色なし、か。見捨てろとは言っていない。君にそれができない事は知ってる。今後は命をかけるなと言っているんだ」


「かけたいわけじゃなくて結果的にそうなってるだけなんだってば!」


 子供のような言い分だと分かっているだけに、間近で見つめ返してくる咎めるような瞳に耐えきれず視線を外す。

 すると、大きな腕に慈しむように優しく抱きしめられた。


「セリーナ。俺はもう君を失うかもしれない状況に耐えられそうもない……もし君が少しでも俺を憐れんでくれるなら、どうか約束してほしい」


 リンドルムらしくない弱った声だった。


 そうだ。もう二度と悲しませたくないと思ったのに。

 目を覚ました時に見た、憔悴しきった顔も涙でぐちゃぐちゃになった顔も私のせいじゃないか。

 カーディルと同じことをするなんてどれだけリンドルムの傷を抉っただろう。

 ……本当に最低だ。


 肩を落として、その胸に頭を擦り付ける。


「その、ごめん。お前がもう二度と私のせいで泣かないように死なないって約束する、から……だから、嫌わないでくれ」


 ふ、とリンドルムが息を吐いたのが分かった。


「嫌うわけがないだろう。なぜそんな話になる」


「だって、お前"嫌だ"って言ったじゃないか」


「いつ?」


「私が意識を失う前。生まれ変わったら親友になってくれって言ったのにお前"嫌だ"って言ったろ?」


「君が死ぬことが嫌だと言ったんだ。死ぬこと前提の約束などしてたまるか」


 当然のように言い切る姿に嬉しさと苛立ちと綯い交ぜになって感情が溢れてくる。


「わ、わかりづらいんだよ! それならそうと言ってくれ! どれだけ悲しかったかっ……! 最期だって覚悟してたのに私の名前も呼んでくれないし! あんな終わり方になって本当にっ……」


「セリーナ」


 私の顎を掬い、上を向けさせられる。

 熱い劣情が灯った青い瞳に吸い込まれそうになって息を飲んだ。

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