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 体に腕を回されたままお互いに何の言葉もなく、ただ風の音と遠くで鳥の鳴き声が聞こえる。


 10分ほど経っただろうか。

 呼吸が整い、多少の冷静さを取り戻すと少し肌寒さを感じて身震いをした。

 それに気付いたリンドルムが私を抱きしめたまま難なく体を起こして自分から引き離す。

 私の体重如き何の枷にもならないのだろう。驚くほど軽々と抱えて膝から下ろされた。

 体が離れた事で先ほどよりも更に寒さを感じて、項垂れたまま両腕をさする。


「すまない。レディにする事ではなかった。いや、その前に君が抱きついてきたわけだが……」


 どこか気まずそうにしながら言い訳をするリンドルムを手で制する。


「い、いや。悪かった。ごめん。私、ただ励ましたくて。元気出して欲しくて。自分の気持ちだけ、押し付けたな。昔から空気が読めないんだ。本当に嫌になるな。ごめん」


「あ、ああ。理解してくれたのならそれでいい」


 下を向いたまま、小さく頷く。

 とても見せられる顔ではない。

 感情もぐちゃぐちゃで、今はただただ罪悪感に潰されそうだった。


「もう騎士団にも顔を出さないようにする。近くに行っても声はかけない。今まで迷惑かけて悪かった。……本当に」


 声だけはどうにか笑っているように聞こえるだろうか。

 目頭が熱くなって、息苦しい。


「陰ながらリンドルムの幸せを願ってる。何かあればすぐに言ってくれ。いつでも力になろう。お前が助けを求めるならすぐに飛んでいくから」


 ひとつ、ふたつと落ちていく涙。

 どうか気付かないでくれ、と必死で声だけは平静を装う。


「お前に……す、好きな、女性が出来たら全力で協力する」


 不自然な場所でなぜか言葉が詰まる。

 その意味を考える間もなく、不機嫌な声が頭上から降ってきた。


「…………君は、そんな中途半端なことをするのか?」


 そこには私を詰るような響きが含まれていて、戸惑いから顔を上げた。


「俺を幸せにすると豪語したのは君だ。発言を覆すのか?」


「あ、あれは幸せにするって言うか、幸せになれるように力になるって意味で。それは距離を置いてもできることだ。だって私がそばにいると迷惑、だろう?」


「………………迷惑ならとっくに出禁にしてる」


 心底不服そうに呟くと、リンドルムは躊躇いがちに私の目尻に溜まった涙を親指で拭った。

 その優しい手つきに涙を抑えることもできなくてぽろぽろと次から次に溢れてくる。

 戸惑った様子のリンドルムが目を瞠って動きを止めた。


「ほ、本当にっ?」


 胸元のシャツを両手で掴み前後に揺さぶる。


「迷惑じゃ、ないのか……? そばにいてもいいのか……?」


「……迷惑ではない。騒がしくはあるが、レディの存在は場を明るくする。それに君が言ったのだろう。友人になろう、と」


「〜〜〜ああ、もう! リンドルム、大好きだ! そうだ! 私達は友達だ! 親友だ! お前がそう言うならもう離れてやるものか!」


 思わず抱きつき、その胸に顔を埋めるとリンドルムが大きく咽せた。


「ぐっ、げほっ! き、君は! 誰にでもそういうことを言うのだろうが、もう少し慎みを持つべきだ! 男に抱きついたりしてはいけないと教わらなかったのかっ?」


「リンドルムにしかしてないぞ? 他の男にするわけないだろう。何言ってるんだ」


「そ、そうか。なら、いいのだが。いや、良くないが」


 モゴモゴと何か言っているが、嬉しくてその胸に頬擦りしていて聞こえなかった。


 こうして抱きつくと以前との差を強く感じる。

 あの頃は大して身長も体つきも変わらなかったと言うのに、今はこんなにも違う。

 いつの間にか背中に回された腕にすっぽりと包まれて、妙な安心感に包まれた。


「リンドルム。リンドルムリンドルムリンドルム」


「なんだ。何回も呼ばなくても聞こえている」


「…………ありがとう」


「別に礼を言われることではないだろう。君はいつも通りこれからも能天気な顔で俺に会いにくればいい」


「おう、毎日だって会いにいくぞ! 親友!」


「…………親友か」


「なんだ?」


「……何でもない」


 リンドルムはどこか不満そうなぶすっとした顔で私から視線を逸らした。

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