冥府の大騒動(3)
ー竜宮ー
主であるセトが突然、『天馬』に乗って竜宮の屋敷に帰還した。
竜宮を管理するジェノは内心では慌ててながらも、その様子はあくまでも沈着冷静で普段通りに出迎える。
「主様お帰りなさいませ。突然のご帰還いかがなさいましたか?」
この竜宮は、主であるセトの作った異界である。だが主は、地上で暮らし滅多に竜宮には帰って来ない。
そして屋敷の中には入らず、1通の手紙を手渡され命令が下った。
「この手紙をエンマの奥方に必ず渡る様にして欲しい。それもエンマには、絶対に気付かれない様に…」
思っても見ない命令に、主様に命令を、もう一度、私は確かめた。
「手紙をエンマ様の奥様に?でございますか?」
主様の交友関係は、ある程度把握しているが、エンマ様の奥方と主様は一切の面識は無いはずだ。
それが突然に手紙を送るとは事情が分かからず正直困惑したが、そんな私の心を察してか、主様が事情を説明しだした。
「エンマがね。僕の娘を拐おうしてくれたからね。この手紙は、その仕返しさ」
どうやら地上では、大変な事件が起こっていたらしい。
主様の大切なセリお嬢様。
以前、竜宮にお嬢様を伴ってやって来た時に側に使える人魚達も、街に住む人魚達も、主様のお嬢様への溺愛ぶりを嫌と云う程に目にしている。
そもそもお嬢様が、竜宮へやって来る少し前に主様のから命じられ、お嬢様の着物から、家具まで滞在中、不足の無いように調える様に命じられた。
今までにも、この竜宮に色々なお客様が見えられたが、主様からその様な命令は一度も受けた事が無かった。
そして、それだけには留まらず、お嬢様が花が好きだと言う理由で竜宮の屋敷には、お嬢様の目に入る場所には、必ず花を飾る様に命じられ、庭は急遽、造園を起こない、お嬢様の好きな花で埋め尽くす様に命じられた。
これだけでも、お嬢様が主様に取っていかに特別な存在か分かると言うもの。
だからこそ、その大切なお嬢様が狙われて主様はお怒りなのだ。
「畏まりました。それで手紙には何と?」
「ああ。簡単に言えば、エンマが地上で人間の娘と逢い引きしてたよ。って、内容かな…」
そう愉快な顔で答える。
正直エンマ様と面識がある私でも、その話は明らかに信憑性に掛ける。
一応、それをやんわりと主様に伝えた。
「それは、また…些かエンマ様の、性格を考えますと…」
「全くの出鱈目でも無いよ。分身で地上に現れ娘の侍女を誘い出して、暗示を掛けて、娘を拐わせたりしたんだから。まあ、エンマと奥方は、もう何百年も別居中っての噂を聞いてるし。案外信じると思う。ここは僕が、直々にトドメをさして上げよう」
本来なら、ここで主様をお諌めするのが、私の役割かもしれないが、正直、主様の大切なお嬢様は我々人魚に取っても特別な方だ。
その大切なお嬢様を拐おうとした、エンマ様を許す事は私にも出来ない。
「必ずや。ご命令通り、エンマ様には秘密裏に奥方様の元に手紙が渡る様に致します」
幸い、冥界は昔と違い閉ざされた世界では無い。
エンマ王の御子息ににして、副官のエンラ様の働き方改革によって、冥界で働く者達は竜宮へと保養目的で来る事が許されている。
当然、エンマ王の奥方に使える者達も、竜宮へ保養に来ている。
伝はいくらでもあるのだ。
こうして、ジェノの活躍により手紙はシュラの元に届けられた。
冥府の大騒動の勃発である。
ー冥界ー
突然、部下の女鬼から、渡された竜宮から送られて来た手紙を読むなりシュラは嘆き悲しんだ。
ただ事ではないシュラの様子にに側に控えていた、女鬼はや手紙を渡した女鬼もシュラに駆け寄り声を掛ける。
「奥方様。如何なさいました?」
そして年配の侍女が様子を確かめれば、シュラは泣きながら手紙を渡す。
手紙を読んで、女達は驚いた。
「まぁ。これは…」
そこには、夫であるエンマの浮気が赤裸々に書れていた。
(*かなりセトにより脚色されてます)
更には、『エンマとその娘が相思相愛で離れて離れでは気の毒だから、その娘を近々あの世に送るので、よろしくお願いする』とまで書かれていたのである。
シュラは泣き止むと決意を固めるた様に女達に命令する。
「貴女達、私は遂に、ここを去る時が来ました。荷物をまとめて頂戴。そして以前秘密裏に用意した地獄山の屋敷へ参ります」
「はい。直ちに」
「あと、この手紙を旦那様に……」
それは、シュラがずっと書いたけど渡せずにいた去り状だった。
「畏まりました…」
女鬼達は、シュラを慕っていた。
そして、ここ最近の冥府は大変忙しく皆が鬱憤を溜めていた。
周囲から見れば、夫婦喧嘩を利用した意趣返しである。
だからこそ彼女が家出をすると言った時、鬼女達は誰も止め入らなかったのだ。
そして、女鬼達は荷造りをして、そのまま地獄山の山頂にある屋敷で籠城を開始したのである。
ー冥府ー
突然、エンマの元に訪れた、使者からの手紙をを見て、エンマは激昂にかられた。
「なんだこれは!?離縁だと!!」
女鬼から渡され書状を、頼まれるままにエンマに届けた男鬼はエンマの剣幕に酷く怯えていた。
「ひっ!わ、私めはただ、この書状を渡す様に、統括地獄の者から言われただでして…内容までは知らなかったのです…。お許し下さい。命だけはお助けを……」
生命造化によって生み出された命は、創造主に生殺与奪の権利を持たれている。
機嫌を損ねれば簡単に消されるのだ。
だからこそ必死に命ごいをする。
その状況に側にいた副官のエンラは、父を諌めた。
「父上。落ち着いて下さい。母上にはきっと、また何か誤解をされて、この様な書状を寄越したのでしょう。少しすれば、母上も落ち着くでしょうから、暫くは、仕事をお休み頂き様子を見ましょう?」
「ああ。そうだな…」
「あ、あのそれが、その、」
「女鬼達が、総出で、地獄山の山頂の屋敷に籠城致しました!!」
「は??それはどういう事でしょうか?」
「女達は、皆、奥方様の味方でして、奥方様に従って山へと行ってしまったんです!」
「エンマ様。地獄が機能していません。他の部署も、女鬼達が皆、出仕して来ませんで、どうしたら?」
地獄は混乱して色々な報告が次々と上がってきた。
その頃、リアは天国から出仕して来たが明らかに、いつもの冥府とは様子と違う事に気がついた。
そこでリアは通りすがりの男鬼に声掛けて、事情を聞く事にした。
「あの、何が有ったんですか?」
「何か有ったって!!この冥界を揺るがす騒動が!」
「あ!あー!すまないがちょっと来てくれ。エンラ様ー!」
そう言って、男鬼はリアを強引にエンラの元に案内する。
リアは、何も事情を聞かされ無いまま、エンマ達の元に連れて行かれるのだった。
ありがとうございました。また明日続きを更新します。 よろしくお願い致します。




