虐げられし姫は、喧嘩を売る
陛下の恋人と、噂される女性の名前はトワ。
長く美しい髪と、落ち着いた大人の雰囲気を、持つ美人な人だった。
飲み物を、かけられた事に気が付き悲鳴が上がる。
「キャー、何をなさいますの?!」
「ごめんあそばせ。手が滑ってしまいましたの」
リアは、必死に高飛車にふるまうが、内心はドギマギしていた。
「貴女、今わざと…無礼者、名を名乗りなさい」
「あら、いきなり人の名前を聞くなんて無礼ね」
「………私にこの様な無礼を働いた事、許しませんわ。陛下に申し上げます。きつく罰していただきますから、謝るなら、今のうちですわよ」
「まあ怖い。でも私、先程、確か、『ごめあそばせ』と謝罪をしたはずですが…お忘れかしら」
「………」
トワは、何も言わずに陛下の元に行ってしまう。
リアは作戦の成功を心の中で喜んだ。
(これで祖国も救われるのなら、私は死んでも後悔は無いわ)
「一体、何の騒ぎ?」
そうして、陛下がやってきた。
リアも陛下に、頭を下げて挨拶をする。
「陛下には、ご機嫌麗しく、私は数日前から、北の小国より、こちらの国に参りました、リアと申します」
「そう」
「陛下、この者が、私にわざと飲みをかけたのです。その上に私に無礼な振る舞いを、どうか、きつく罰して下さいませ」
「わざとではありませんわ」
リアは、ここでダメ押しするかの様に高慢に言う。
「いいえ、絶対にわざとです」
2人は、再び喧嘩を初める。
だか、陛下は特に怒っている様子もなかった。
そしてトワから声を掛けた。
「それは大変だったね。君は、一度、下がって汚れた着物を着替えて来たらいいよ」
言葉は柔らかいが、そこには有無を、言わせない雰囲気があった。
「へ、陛下…かしこまりました」
トワは、不満そうに返事をして、一礼をして下がった。
「えっと、君は、確かリアだったね?君の着物は、大丈夫かい?」
リアは、予想に無い事を言われて焦った。
「え?ええ…」
「それはよかった。うちの宰相の政策のせいで、祖国を放れ人質に来て、慣れない王宮での暮らし、色々、心労もあるだろ。無理はしなくていいからね」
そう、優しい言葉を言われた。
「え?はぁ、ありがとうございます」
リア考えていた事態と違い過ぎて、ただ『ぼーぜんで』ある。
「今日は、宴を楽しんで」
そう言って話は終わり、陛下はどこに行ってしまった。
(え???ちょっと待って、私に罰は?不問なの?なんでそうなるのよ!!)
◇◇◇◇
その後、宴を楽しんでと言われたが、トワとの喧嘩のせいで、周囲の視線もあり、リアはすぐに宴の会場を去り、自分の部屋へと戻った。
慣れない芝居、想定とは違う事態になり、思い返すだけで、どっと疲れた。
(それにしても…予想がだったわ。優しい言葉を言って、きっとあの女たらしの陛下はああやって、今まで沢山のご令嬢を口説いてきたんだでしょうね…最低ね)
部屋に戻った後も何の音沙汰も無い。
本当にあの無礼は不問になってしまったらしい…。
(でも、ここまで来て、今さら諦める訳にはいかないわ。祖国の人々の為にも、あの陛下を、絶対怒らせて見せる!!)
リアは、決意を新たに再び作戦を考えるのだった。