一つめ。人は生まれながらにして知ることを欲する生き物である
かの有名な偉人、アリストテレスが言った言葉、
「人は生まれながらにして知ることを欲する」
…今回はそんなことを考えながら読んでみてください。
とある川沿いのところに、小さな喫茶店がある。
ログハウスのように作られたそれは、とても温かみがありそうだ。
カランカラン
「いらっしゃいませ」
そういって出迎えてくれたのはバーテンダー服を着た、落ち着いた雰囲気を持った、精悍な顔つきをした青年だ。大人びた雰囲気を持っていながらも、子供らしさもある。髪はぼさぼさで、肩からちょっと上まで伸びている。見たところ、年は十八、九歳くらいだろうか。
「ご注文は何でしょうか」
青年が聞いてきたので、客は答えた。
「魚料理が食べたいんだが…何かないか?」
「魚料理ですか…いま、魚を釣ってきていますので…」
「テレスく〜ん! 見てみて! ほら、こんなにでっかい魚! いっぱい釣れたんだよ〜!」
青年――テレスというらしいが――が話そうとしたとき、長く、地味な色をしたフレアスカートを着た、栗色のやわらかい髪をした、太陽のように明るく、かわいい女の子が店の中に入ってきた。
その頬は柔らかそうで、
その顔は実に幸せそうに、
そして人生を確実に楽しんでいる、と、言ったような顔だった。
そして、彼女は釣竿とバケツを持って。
どうやら彼女は釣りをしていたということが見てわかる。スカートの端がところどころ濡れているような染みがあるからだ。
「あ…お客…さん?」
「見てわかるだろう? アリス」
私に気づいたのか、少女――アリスというらしい――が私に向き直って、
「いらっしゅあいませっ!」
思いっきりかみながらも私に接客(?)をしてくれた。
「ふふっ…」
私は思わず笑ってしまった。あまりにも、その少女が愛らしくて。
「ところでアリス。魚を釣ってきてくれたのかい?」
「あ、うん。ほら! こんなにおっきな魚!」
確かに大きい。どうやって釣ってきたのか分からないくらいの大きさだ。これならそこら近くの町に売っても高値で捌けるだろう。
「これは僕らで食べるとして、僕はいつものこの魚を調理することにするよ」
どんな風に食べるのかこれはこれで気になった。
そしてアリスが次々に釣った魚を出していくうちに私は見覚えのある魚を見つけた。
「あ、それは…アユですか?」
私は思わず聞いてしまった。
「ええ。このあたりでよく釣れるんですよ」
「でも、その魚がつれるところは教えないけどねっ!」
そういってアリスは私に向かって舌を出して小さく笑った。
「ま、そういうことです。企業秘密、ということで」
「あ、では…その魚を調理してもらえませんか?」
私がぶしつけがましく言ったあと、テレスと言う方はほくそ笑みながら、
「かしこまりました」
そういいながら慣れた手つきでアユを捌いていた。
テレスはまずアユの内臓を取り出し、塩をまぶし、フライパンを熱している間に油を引いて…私のためにアユを調理していた。
「で? あなたはどこから来たんですか?」
調理をしている間、私は自分の身の上でもアリスに話すことにした。
そして私は話した。自分の生まれ、過去、そして目的。
そしてその旅の目的…それは、
世界の起源を、探すこと。
はじめ、世界には何もなかった。それでも、世界には何かがあったことがわかる。
だからこそ、私は知りたい。
世界の起源を。
この目で。自分自身で見てみたい。そう思って旅をしていることを話した。
そして無垢なる少女は答えた。
「世界の起源は、皆が知っているものですよ?」
「皆が知っているもの?」
「そうですよ。世界の起源なんて皆知らない。忘れちゃってるんだと思います。
だから人は知りたい。
見たい。
確かめたい。
聞きたい。そんな欲求があるからこそ、人は何かを知りたがるんだと思います。
知っていますか? どこかの誰かが言っていたんですが…。
『人は生まれたときから知ることを欲する生き物である』って言ってました。
そしてあなたは、世界の起源が知りたい。それだからこそ、旅をしているんでしょう?」
そういってアリスはカウンターの中から水を出した。
…きれいな水だった。そしてそれゆえにおいしかったのかもしれない。
そして私はテレスが作ったアユのムニエルを食べさせてもらった。
暖かく、そしてやわらかく、ほんのり甘くて苦かった。
しかし、それだからなのか。おいしかった。
お代のを払おうと思ったらテレスが手で制し、
「アリスと話をしてくれたこと。それがお代です」
そういって私を送ってくれた。
あれから何日経ったであろうか。
あの味は今でも忘れてはいない。
だからこそなのだろうか、私は今でも旅をしている。
世界の起源を、今でも何であるかを探すために。




