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第2話、この世界の裏側で

「戦士クレス殿、我々魔王軍に寝返るつもりはないか?」

「は?」

 予想の斜め上の申し出に対し、クレスもまた礼節に欠けた発言をしてしまった。


「貴公の存在は、我々にとって大きな力になる。だから我々に協力して欲しい、と言っているのだ」

「冗談だろ?魔王軍に寝返ろだって?オレは元とは言え勇者の仲間、人類救済のために戦うと決めた人間だ。そのオレが人類を裏切って魔王軍の仲間になるなどあり得ない」

 例え、自分が死にかけたのが勇者の仲間のせいだとしても、今、生きているのが魔王の仲間(手下)のおかげだとしても、我が身可愛さに自分が今まで戦ってきた理由を捨てられるほど、クレスも落ちぶれてはいなかった。


「なに、即断してくれとは言わない。だが、貴公が思っているほど、我々は存外醜悪ではないぞ」

「ふん。何を言っても無駄だ。ここで監禁生活を送ったのちに餓死してやる。残念だったな」

「餓死……なるほど、人間は飢えて死ぬ生物だったな。よろしい、では食事にしよう」

「食事?」

 予想外の言葉に、クレスはオウム返ししてしまった。魔王軍に捕らえられたのだ。想像したくないような拷問を受け、生きているとも死んでいるとも言えないような状態で数日間いたぶられると覚悟していた。


「あぁ、もちろんだ。貴公の立場は捕虜、捕虜の扱いには細心の注意を払わねばならぬ。それが道理というもの」

 ジェイクの紳士的な発言に対し、クレスは不本意にも失笑してしまう。

「魔物が道理を語るのか、おかしなことを言う」

「何と言ってくれても構わんよ。そういう差別的な発言も今のうちだと思うから」


 壁に繋がれていたクレスの左腕を壁から取り外し、スケルトンのジェイクとクレスは牢屋から出てきた。

「あ、ジェイクさま。お話は終わりましたか?」

 牢屋の外で聞き耳を立てることなく、ただ静かに待っていたルルが出てきた2人を見て声をかける。

「終わったよ。だが、クレス殿はお腹が空いたようで。悪いが食堂に連れて行ってもらえるかい?ワタシはここの()()に報告してくるから」

「ぎょい!!」

「御意って……」

 びべし、っと敬礼をするルルに対し、クレスは緊張感の無さを感じていた。

 ここが魔王軍の拠点であることは話の流れで何となく察しているが、ルルと呼ばれた少女からは魔王軍の軍人と言った雰囲気がまるでしなかったのである。

 若干失礼ではあるが、村人Cと言われても全然不思議ではなかった。


「はい、これクレス殿の手枷の鎖。逃げるような行為はしないと思うけど、見張ってて」

「重ねてぎょい!」


「はぁ……ジェイクだったっけ?テメェはオレがこんな華奢な子でどうにかできるように見えるのか?」

「さっきも言ったが、ここでは外見で中身を判断するのはご法度だ。それに、貴公を信頼している。それだけだよ」

(さっきから同じような発言を……いや、待て。もしかしたら、この娘、外見からは考えられないような怪力の持ち主なのか?なるほど、流石は魔王軍。見た目に騙されるとは、オレもまだまだ未熟だな)


「では、後のことは任せたよ」

 そういいながら、ジェイクはクレスたちの元を去っていく。

「は~い、いってらっしゃーい!」

 これまた可愛らしくオーバーリアクションで手をぶんぶん振って見送った。

「さて、それでは参りましょうか」

 ペットの犬と散歩するかのような満面の笑顔でルルは歩き出したが、クレスは立ったままである。

 ルルは慣性の法則に負けて「ぽわちょ!?」と間抜けな声を漏らして後方に躓く。

「クレス様?どうかしましたか?」

「ん?いや、別に。……あれ?」

「ほぇ?」

 クレスは呆けていた。目の前の少女が怪力なのであれば、自分は小型犬のように引きずられていたはず。しかしそんなことはなく、まるでクマかライオンでも使役したいのに断られているような感じになってしまっている。


(……これはあれだな。この娘は見た目通り子犬。あのガイコツ、何が外見で中身を判断してはいけない、だ。ただのはったりじゃねぇか)


「あー、そうだ。ルルさん、ちょっと」

「ルルです。私の名前はただのルルです」

「いや、だからルルさ……」

「ルルです」

 威圧。分かりやすいほどの威圧感がそこにあった。

 どうやら是が非でも敬称をつけて呼ばれたくないらしい。


「じゃあ、ルルちゃん」

(ニッコリ)

(気に入らない、って顔だな……まぁ、呼び捨て希望というのであればそれで良いか)


「失礼した。ルル、食堂に連れて行ってくれる前に1つ質問させてもらいたいのだけど」

「えぇ、大丈夫ですよ。1つでも2つでも答えられる質問には全てもれなく答えます」

「そんなに聞く気はないのだが……こほん。単刀直入に聞かせて欲しい。ここはどこだ?さっきの男は自分のことを中央支部支部長と言っていたが、彼とは別にボスがいるのか?」

「あー、ジェイクさまはその辺の話をしていなかったんですね。分かりました。代わりに説明しましょう。ここはスヴァルトアルブヘイム、()()()()8()()()()()()()()()()()()()()1()()()()()()()です」


「地底都市?そんなものが?」

「えぇ、人類にはまだ知られていないそうで。……あ、ということはクレスさまが初めてってことですね。どうです?お気持ちは」

 そう言われたクレスは鎖で繋がれた自分の左腕を見て。

「捕虜としてやってきたんじゃなかったら、もう少しは感動があったかもな。誰も知らない幻想郷という意味なら、浪漫にも似たときめきを感じたに違いない」

「ははは、まぁそういう反応になっちゃいますか。さて、それでは詳しい話は食事をしながらしましょうか」


 少女ルルが説明したように、ここスヴァルトアルブヘイムは巨大であった。

 城下町がまるまる収まるのではないかと思えるほどに深くまで掘られており、下手をしたら18ホールのゴルフ場ができるんじゃないかと思えるくらいに広大。

 その証拠に、歩き出して15分経っても食堂に到着しない。

「スヴァルトアルブヘイムはここ中央以外にも東方支部など東西南北の4つがあり、それぞれに支部長がいます」

「てことは、あのジェイクみたいな中間管理職が他にも3人くらいいるわけか」

 魔王軍幹部を一般的なギルドのギルドマスター(組長)だと考えた場合、支部長は各隊の隊長みたいな位置づけだろうとクレスは推察してみた。


 そして、こんな巨大な都市の『ボス』を務めているのは、魔王軍幹部くらいしか考えられなかった。

(つか、オレたち勇者一味はこんなバカデカい都市を複数支配しているような軍を相手にしていたのか?たった4人で?…………マジかよ)


 敵の詳細を知ってしまい、戦意喪失気味に陥ってしまう。個としての戦力は女神の祝福を受けた人間の方が圧倒的に高く、一騎当千の戦力があり今まで対等以上の戦いができていたとはいえ、目の前の現実に奇妙な違和感があった。


 牢屋から歩いて約30分。ようやく食堂にたどり着いた。

 文句を言える立場ではないことは承知であるが、クレスはこの都市の構造に対し、不満しかなかった。

(捕虜の扱いには細心の注意、とか言ってた気がするんだが……なんで牢屋から食堂までこんなに長いんだよ。欠陥だろ。不便すぎる……)

「使いづらいですよねぇ。ドワーフの方々は土の中を進めるし、アンデットや竜族はそもそも食事をしない。食堂まで歩いて移動するのって、実質私だけなんです。我慢してください」

「あぁ、なるほど、そういう理由なのね……」


 食堂に入ると、そこは至って普通であった。いや、普通以上である。

 内装は豪華であり、王宮を彷彿とさせるような煌びやかなものであり、庶民的な要素は見当たらない。地下だというのに謎の技術か魔法によって太陽光が差していると思えるくらいに明るく居心地が良い。

 ここの内装を担当した人物の美術センスは非常に高いことがうかがえる。


「ほぉ……なんか素直に驚くな。感嘆の極み。魔王軍が支配している都市だと思ったから警戒していたが、地上の都市とそん色ない、というよりも地上の方が負けてるなこりゃ」

「ですね。ドワーフさんたちって『背が低いのに腕力がすごい』とか『暗くてジメジメした場所が好き』って部分が強調されて伝わってますけど、実際は芸術家肌な方々で、こういう分野においては人間に負けていません」


 そんな雑談をしていると、給仕らしい子(ドワーフであるため、子供のように見えているが、実年齢は20代)にルルは声をかけ、適当なテーブル席に座らず、なぜか潜った。


「まったく……ここの椅子は固定されてるのが正直使いづらいんですよね。やっぱり椅子は普通の椅子に限ります……よいしょっと」

 四つん這いになりながらバカっぽい姿をクレスの前に晒していた。

 クレスは「パンツ見えてるぞ」と指摘しようかとも思ったが、目の前の間抜けなシーンに呆けてしまっている。

「…………君は何をしている?」

「なにって、卓上に鎖があったら不便じゃないですか?だからテーブルの下に潜ってですね」

「わざわざ潜らなくても、座った後に鎖をどければ良いんじゃないか?」

「え……ホントだ!!?」

(この娘、うすうす気づいていたけど、やっぱりお頭があまり良くないな)


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