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第1話、希望は泡沫(うたかた)に散る

「はぁ……はぁ……。クッソ!しくじった!!」

 失った右腕の傷口から大量の血を流しながら、男は山道を必死に歩いていた。

 男の名はクレス。〈戦士〉と呼ばれる勇者一味の仲間の1人であった。


 勇者一味は、リーダー格の〈勇者〉と、〈戦士〉〈賢者〉〈司祭〉の計4人で構成されている。その目的は、人類の救済。そして、人類の敵として認識している魔物の討伐だった。

 クレスが右腕を失ってしまったのは、魔物に襲われている村人を助けた際に、魔物に食いちぎられたのである。ただ、それでも隻腕の状態でありながらも、多くの村人を守り、魔物を駆逐してみせたのは彼の実力によるものであった。


「はやく〈司祭〉に……フランに傷を治してもらわないと、出血多量で死ぬぞ……」

 意識が朦朧となりながらも、拠点に帰還しようとしていると、クレスは目の前にある男が立っていることに気づいた。


 その男もまた勇者の仲間である〈賢者〉だった。

「おぉ!リカルド。お前も無事だったか。そいつは何よりだ。悪いが、肩を貸してくれないか?オレは見た通り、このざまでな。情けないとは思うが助けて欲しい」

「…………」

 賢者リカルドはクレスの要求に沈黙で応える。

「リカルド?」

「あーあ、なんだ。アナタはまだ生きてたんですか。ようやく殺したと思ったんだが、存外しぶといんですね」

「お、おい、何の冗談だ?この間、お前の目の前で干し肉を食った事を怒ってるのか?わ、悪かったよ。今後、町に行ったらステーキだろうが何だろうが奢ってやるから、今回は助けてくれないか?」


「いやいや。そんなことはどうでも良いんですよ。ワタシが言ってるのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のに、3人しか死ななかったうえに、肝心のアナタまで生きてて残念だったって言っているのですよ」

「なっ!?」

 ここまで来て、クレスは状況を理解した。目の前にいる男はもうすでに仲間なんかではなく、助けてくれる存在などではない。仕留め損ねた獲物を確実に殺すためにここにいるのだと。


「リカルド!なんでそんなことを!」

「なんで?変なことを聞くんですね?人を殺す理由なんてささいなことでしょう。気まぐれでしかない」

「ふ、ふざけるな!民の命を何だと思っている!そんなこと〈勇者〉だって思っているわけがな……」

 ザシュッ。

「うるさいですね。とっととくたばってください」

 クレスの左胸に短剣が刺された。


「なっ……はっ……?」

「それ。もういっちょ!」

 リカルドはクレスの顎を蹴り飛ばし、クレスは仰向けに倒れてしまう。


「あ、もう聞こえてないでしょうが、ワタシの行動は〈勇者〉も把握しているので。それでは、失礼。次はあの世で会いましょう」

 短剣を抜き、そのまま〈賢者〉リカルドは、大量の血を流し絶命するのを待っているだけのクレスの姿を、肉食動物に食い殺されたウサギの死骸を見るような目で蔑み去っていった。


(何だ……どういうことだ?なんで、リカルドはオレを殺そうとしたんだ?いや、その前に〈勇者〉もヤツの行動を知っている?なんで、どうして……もしかして、オレは、アイツらに裏切られたのか……?あぁ、マズイ、意識が吹き飛ぶ……オレは、このまま死ぬのか……)


 クレスが目を覚ますと、薄暗い個室だった。

 いや、個室というには殺風景すぎる。まるで人が生活している感じがまるでなく、強いて言えば牢屋に近い、と言うよりも牢屋でしかなかった。

(何だ?どうしてオレはこんなところに……つっ!)

 失った右腕の傷口に痛みを感じ、クレスはここが冥土でも夢の世界でもないことを察した。だが、これが現実であるなら、余計に理解が追いついていない。

(確か、リカルドに胸を刺されて、気を失ったはず……傷口は、ふさがってる?アンネが治してくれたのか?いや、そんなはずはない。そんな都合が良い展開になるほど、リカルドの詰めが甘いとは思えない。じゃあ誰が?)


「あ!気が付きましたか!」

 状況の整理を始めたクレスの元に、可憐な少女の声が届いた。

「いやぁー!大量の血を流して行き倒れていると聞いた時はもう死ぬしかないんじゃないかって思ったんですけど、何とかなったみたいで良かったです!!」

 少女はクレスの左腕を握りしめ、ぶんぶんと上下に振った。

「あ、申し遅れました!私の名前はルル、姓はありません。ただのルルです」


「あ、あぁ、そうか。名乗ってくれてありがとう。オレの名は」

「存じています!クレスさまですよね!有名ですから!」

「有名……?」

「はい!勇者一味の〈戦士〉と言えば、()()の間で知らない者は居ませんよ!」

(我々?なんだ、この()?なにか変だ)

 違和感の正体に気づくことなく、少女の勢いに圧倒されてしまう。


「どうしたのですか、ルル。もしかして、お客人の目が覚めたのですか」

 今度は紳士的な口調の男声が聞こえてくる。けれど、声の主は見当たらず、代わりに先ほどまではいなかったはずの骸骨姿の男が現れた。

「魔物!スケルトンか!!」

 現れた男に敵愾心をむき出し、臨戦態勢を整えようとしたが、クレスは自分の左腕が鎖に繋がれている事に気づき、また武器の手持ちがないことにも気づいた。


「落ち着きたまえ。何、取って食おうとしているわけでもない」

「白々しい。今更そんな与太話が通じるとでも思っているのか!!」

「だから、落ち着けと言っている。貴公は自分の状況を理解しているのか?誰が貴公を助けたと思っている?我々だぞ」

「…………どういうことだ?」


「ルル」

「は!ただいま!」

 ガサゴソ、ガサゴソ。

「じゃんじゃかじゃ~ん!ドワーフさん特製の紙芝居劇場のはじまりはじまり!」

 ぺっかぺかな笑顔。


「あー、おい、スケルトン」

「ワタシにはジェイクという名前がある。種族で呼ばないで欲しい」

「ジェイク、なんだこれは?」

「貴公は紙芝居を知らないのか?」

「そういう意味じゃねぇよ!!なんで牢屋に閉じ込められて謎のガイコツと美少女と一緒に紙芝居なんて見せられてるんだって意味だよ!!」


「美少女……照れますなぁ、えへへ~」

 分かりやすく頬を染めまんざらでもない様子。

「あまり褒めないで欲しい。というか、()()では外見に対する賛辞や罵倒は厳禁だ」

「よく意味が分からないんだが、まぁ分かった。で?紙芝居を見ないといけないのか?」


「えー?クレスさまは紙芝居嫌いでした?せっかく用意したのに……」

 分かりやすくしょんぼりをするルルに対し、流石のクレスも若干の罪悪感を覚えてしまう。まるで子供がウキウキで見せびらかしたオモチャをゴミか何かのように扱ってしまったという風な罪悪感が。


「はぁ……。ルル、すまないが席を外してくれるかな。君がいると、話が進みそうにない」

「えーーー???」

「口答えしないで、ほら」

 皮膚も筋肉もない骨の手で「しっしっ」とジェイクはルルを追い払った。

「はーい。了解です」

 少女は不満な様子のまま、牢屋から出て行った。クレスはまだ気づいていなかったが、この牢屋、およそ人を監禁することを考えていないのか、牢屋の扉がお粗末な感じであった。


「さて、それではクレス殿。今、貴公は自分がどういう状況に陥っているか理解されているかい?」

「……仲間に、いや仲間だと思っていたヤツのおかげで死にかけた、ってことくらいか」

「なるほど。我々が何をしたのかはまだ把握されていない、と」

「と言うよりも、アンタやさっきの娘が何者かすら知らん」

「そこからか。では、改めて自己紹介をさせていただこう。

 こちらは魔王軍中央支部支部長のジェイクだ」

「魔王軍、だと!?」

 クレスが身構えるよりも先に、ジェイクはローブの袖から拳銃を抜き出し構えた。

 そして、銃口を自分の方に向けて敵意がないことをアピールした。


「落ち着きたまえ、貴公を殺す気でいたならもう殺している。安心してくれというのは難しいだろうが、少しはこちら側を信頼して欲しい」

「どの口が言うか!お前ら魔物どもは、多くの人間をいたぶり殺してきた。その事実を忘れて、のん気にお茶でもしろという気か?」

「では質問させてもらうが、人間に危害を加えるのは我々魔物だけなのか?貴公の心臓に剣を差したのは貴公と同じ人間だったのではないか?」

「……その通りではあるが」


「良い人間、悪い人間がいるように、良い魔物も悪い魔物もいる。それを理解せずに『魔物だから』と言う理由だけで殺される我々の同胞はどうだ?本当に殺されなければならなかったのか?」

「…………」

 その言葉に、クレスははっきりとした答えを出すことはできなかった。


「貴公らにとって、我々の戦いは単なる侵略戦争に感じるかもしれんが、実際は独立戦争。つまり、我々は我々が安全に生きていられる場所が欲しいだけなのだ」

「独立……だと?」

「あぁ、人間が勝手に自分たちの集落を作ったにすぎぬ。むしろ我々魔物からすれば、人間の方が侵略者と言って過言ではない」

「だから自分たちは悪くないとでも言うのか?それで納得するほど、人類は間抜けではない」

「違うよ。誰が悪いとか誰が正しいとかそんな話ではない、という事だ。お互いが自分たちの行動に正当性を感じている。戦争とはそういうものであろう?」

「…………」

 この発言に対しても、クレスは沈黙するしかなかった。けれどそれは肯定という意味ではなく、純粋に反論することができなかったという事でしかなかった。


「しかし、今、我々にとって想定外の事態、と言うよりも最も危惧すべき展開になってしまっている」

「危惧すべき展開?何の話だ?」

「勇者一味、つまり貴公たち人間の中でも最強格の猛者が現れたことだ。特に、〈勇者〉と〈賢者〉の2人は危険すぎる。〈賢者〉の方は魔物を狩ることに何らかの快感を覚えているように思え、〈勇者〉に関しては我ら魔物を滅ぼすことに全力を注いでいるように見える」

「快感……」

 ジェイクの考察に対し、クレスはリカルドの言葉を思い出した。


『人を殺すのに理由っているのか?人を助けるのも殺すのも気まぐれでしかない』

 そう言っていたリカルドは、人が死ぬことを楽しんでいるという確信があった。

 もっと言えば人を殺すこと、それ自身を愉悦か何かと思っているとすら思えた。

 そうでなければ、自分が殺されなければならない合理的な理由がクレスには見つからなかったのだった。


 だが、〈勇者〉はどうなのか。清廉潔白と呼ばれるに相応しく、弱者を救うために聖剣を振るっていた勇者は、人が死ぬのを良しとはしていないだろう。

 しかし、魔物に対し、並々ならざる怒りや憎しみを持っていたことは周知の事実であり、親の仇のように滅ぼし尽くしていた。


 もしも、〈勇者〉が〈賢者〉の行動を把握し、〈戦士〉であるクレスやクレスが守った村の住民たちの生死に興味がないと仮定した場合、導き出される答えは。

「〈勇者〉は魔物を駆逐するためなら、多少の犠牲はやむなしと考えている節がある。民間人を魔物を釣るためのエサとして利用している、と我々は考えている」

「……否定したい推理だが、自分の状況を考えれば、受け入れる方が自然か」


 人類の救済のために戦っていると思っていた〈勇者〉ですら、人類存続のためには多少の犠牲をやむ無しと考えている。

 人の死を悼む程度の心は持ち合わせているだろうとは思うが、彼女もまた全人類をもれなく守り抜くことが幼稚な理想論であることを知っているはず。


 だが、人類救済のために、無辜の民を鏖殺(おうさつ)していたなど信じたくなかった。どのような大義名分があろうと、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「不愉快極まりないな。あのクソアマ」

 もはやそこには、かつての仲間に対する敬意などなく、心の底から侮蔑するしかなかった。


「さて、それでだ。貴公を助けた恩義に報いると思い、我々の提案を聞いてくれないか?」

「提案?」

「あぁ。戦士クレス殿、我々魔王軍に寝返るつもりはないか?」

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