4:進んでいく。
変わらない廃れた風景を歩き続けていると、前方にぼんやりと巨大な山らしき物が見えてきた。
「ふふ、鬼ヶ島みたいだと思った? 鬼が案内するのは鬼がいる所って決まってるのよ」
「無駄口叩いてねぇで、さっさと案内しやがれ」
「んもぅ、つれないわね」
山の目の前に到着すると、その大きさに度肝を抜かれた。
(これ、東京タワーくらいあるんじゃないの)
鬼女に手招きされながら、山に穿たれた大穴の中を進む。
等間隔に火の玉のような物体が浮かんでいるが、内部は薄暗く照明としてはあまり機能していない。
(これは、とんでもない場所に来た予感がする……)
この先に一体どんな化物が待ち受けているのだろうか。
流石の私も手のひらにじんわりと汗を掻いていた。
「着いたわ。この扉の奥にお待ちかねよ」
「随分と豪勢な扉じゃねぇか。いかにもな雰囲気だけどよ、一体誰が待ってるってんだ」
「それは私が答えたらつまらないでしょう。自分の目で、確かめてごらんなさい」
含みのある鬼女の言い方が、私の心に動揺を生み出す。
(……まぁ、日和っていても仕方ないか)
言われるがままに着いてきてしまったが、今更ごめんなさいと引き返す訳にはいかない。
私は任侠一家鷲ノ巣組の跡取り娘、鷲ノ巣遥香。
これまで幾多の修羅場を潜り抜けたと思ってるんだ。
腹を括れ、頭からマイナスイメージを掻き消せ。
唾を飲み込み、ゆっくりと扉を開いた。
(……空気が、冷たい)
広がっていたのは殺風景で広大な、土壁剥き出しの空間。
装飾など何も無く、ただただ広く薄暗い。
その空間の最奥に、椅子へ腰掛ける小さな黒い塊が見えた。
「ん? あれは......」
人影、なのだろうか。
慎重に、警戒しながら近付いていく。
「ほっほ、そう警戒せんでもいい。もっとワシの前に近こうよれ」
大広間に甲高く響く老人の声。
その声には愉快げな雰囲気が滲んでおり、まるで私の到着を待ち侘びているようでもあった。
(何なの、気味が悪いな)
声の元へ近づくにつれ、黒い塊が次第に輪郭を帯びてきた。
「始めましてじゃな、遥香よ」
「……あ、貴方は」
背丈は私より低く、四肢も痩せ細っている。
それでいて瞳は爛々と熱を帯びており、今が最高潮と言わんばかりの気迫が全身から溢れ出していた。
その姿を前に、私の背筋が凍り付く。
無理もない、この方は間違いなく。
「初代、鷲ノ巣組組長……」
「待っておったぞ愛しい孫娘よ。少し、爺ちゃんと話をしておくれ」