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2:驚嘆する。

ふざけているのだろうか。


目の前の蓄音機を蹴り飛ばしたい衝動に駆られるが、手足の鎖が邪魔をしてそれも叶わない。

薄汚い独房のような部屋とはあまりにも不釣り合いな鳥の美声を聴いていると、頭がおかしくなりそうだった。


そもそもこの状況は何だ。


確か私は、連中にハメられた末に拳銃で打たれて死んだ。


なのに、今の私には五感が備わっている。

身体を動かしている、という感覚が生前と同じように残っている。

気持ちだって焦っている、つまり感情も備わっているのだ。


私は本当に死んだのだろうか。

(いや、多分生きてる......)

唇を思いっきり噛み締めると一滴の血が滴ってきた。 


生きている証拠なんてこれで十分だった。


生きている以上、これから先も生き続けなければならない。

なら、どうにかしてこの状況から抜け出さなければ。


部屋の隅々まで観察し、思考を巡らし、策を練る。



そんな矢先、計略の時は突如として打ち破られらた。


独房の扉が重い音を立てながらゆっくりと開かれていく。

私は本能的に危険を察知した。

(この状況で襲われたら、どうにもならない)

奪われないために、精一杯の虚勢を張るしかない。

相手が足を踏み入れた瞬間に恫喝してやる。


青白く細長い足がゆっくりと独房に侵入してくる。

先手必勝、私に手を出したらタダじゃおかないという恐怖を植え付けてるんだ。



深呼吸を一つ。



「おいコラてめぇ何処のモンだ。カタギが手出したらどうなるか覚悟してやってんだろうな......あ?」


「あら、随分と威勢が良いこと」


言葉が詰まった。

目の前に鬼がいたからだ。


正確には鬼の面を被った女。

高めの慎重に黒いドレスを着流しており、見る者を魅了する美しさを醸し出していた。


ただ一点の部位を除いて。


「あ、あなた、なに、その腕」


人のモノとは思えない程に肥大化した右腕。

岩を思わせる厳めしい物体が足元まで伸びており、表面は大小様々な無数の棘で覆われていた。


「ふふ、怖い? これぞ鬼に金棒よ。洒落が効いててナイスだと思わないかしら」


呑気な声で戯れ言を吐いているが、舐めて掛かれば金棒と化した右腕に擂り潰されるだろう。

警戒を解く訳にはいかない。


第一、私は鷲ノ巣組の跡取りだ。

こんなフザけた輩に怯んでいては任侠一家の名が廃る。



気を取り直そう。

まずは主導権を握るきっかけを作らなければ。



「おい、そこの蓄音機はお前が置いたのか? 耳障りだからその腕で一つ粉にしてくれねぇか」

「......本当に面白い子。余興と思って置いたのだけれど、良いわ。お望み通りにしてあげる」


鬼女は右腕をゆっくりと上げ、蓄音機に向けて振り下ろした。


その瞬間、独房という狭所に響き渡りる轟音。

核弾頭でも落ちたのかと疑うほどの衝撃を受け、私のあばらはピシピシと軋みを上げていた。


「やるじゃねぇか」

「期待に応えられたようで嬉しいわ」


蓄音機が置かれた場所には大穴が空いていた。


規格外の化物による規格外の爪痕。

口では強く出たが、実際には背筋が凍り付いている。

久しく忘れていた、他者に対する恐怖という感覚。



ここまで来れば間違いない、直感は確信に変わった。

証拠は十分揃っている。


「なぁ鬼女。質問させてくれよ」

「肝が据わってるのね、ますます気に入っちゃう。特別サービスで何でも答えてあげるわ」



「ここは地獄か?」

「......その通り、正真正銘文字通りの地獄よ」



どうも私は、本当に地獄へ堕ちたらしい。


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