#17 勝負の結果
個人戦イベント 決勝
「フージンさん、勝ちますからね」
「オニオンさん、敬語使ったからリアルでボディーブローね」
「ここはいいんじゃ?綾もさん付けだし」
「…フージンと呼べって言ったよな?」
「呼び方だけはリアルとネットの境界線は深いって事ね?」
「そういうこと。それより覚えてるんでしょうね?」
「覚えてるよ。パン美味しかったね」
「そこじゃねぇよ!!あと、あのパンどこでも買えるよ!」
「ちゃんとわかってるよ。あっ、こうしない?」
「何?」
「僕が勝ったらフージンさんは僕の家に来る」
「私が勝ったらオニオンさんは私の家に来て全裸で縛られる」
「そう、そこから…。いや、違う。今、変な言葉が付いた」
「あの時言わなかったからね」
「それを言おうとしてたの!?」
「でも嬉しいでしょ?」
「…ノーコメント」
「嬉しいんじゃない…」
答えないことが答えになった。
「そろそろ始まるよ」
「ちっ、はぐらかしやがった」
「言葉が悪いよ」
「でもそんな私が?」
「…好き。いや、今はいいよ!」
「四六時中、私の事しか考えないって言ったのに……」
「捏造はやめてね?」
「ちっ」
「はいはい、本当に始まるよ!」
「絶対勝ってやる!」
「こっちこそ!」
試合開始
フージンはオニオンに向かって走っていった。
それを迎撃するために後ろに下がりながら通常攻撃を繰り返すオニオン。
「うぜぇ!!」
『烈風拳』
中距離攻撃を仕掛けオニオンにダメージを与えたフージンは食らっていたダメージ分を回復した。
「あぁ、なるほど。厄介」
「ふっふっふー」
「厄介な女だ…」
「おい、どっちの意味で言った?」
「もちろんゲーム内、現実では愛してるから」
「ちょ!…ありがと。っておい!魔法詠唱してるな!?」
「バレた?でももう遅いよ」
『エクスプロージョン』
爆炎がフージンを包み込む。
「ねぇ」
「何?」
「ズルくない?」
「そう?」
「そうだよ!」
「でも愛してるのは本当だし」
「…そ、それはありがと」
「愛してるついでにスキルいくよ」
『アローレイン』
オニオンはスキルを放った。
「…それがズルいって言ってるの!!ってあんたまた多人数用のスキル付けたままじゃない!」
「…バレた?」
「ネットではちゃんとしなさいって言ったわよね!?」
「逆じゃ?」
「口答え?」
「いや?…ハハハ」
「プッ、フフハハハ」
二人は笑う。とてもこの闘いが楽しかった。
その後、今までに無いほどの好勝負を展開し、観客もそのレベルの高さに釘付けになった。
しかし観客達は知らない、この二人がイチャつきながら結婚後の主従関係を争っているだけだということを……。
一年後
ホテル
二人はベッドにいる。
「ねぇ、また私が先に行っちゃうよ?頑張んなさいよ」
「頑張るって、僕もちゃんと行くから」
「一緒に行こうって言ったじゃない」
「だから行くって」
綾は起き上がり
「私、招待選手だから決勝リーグからよ?」
「わかってるって、ちゃんと今日の予選も頑張るから」
貴俊も眠そうに起き上がる。
「じゃあ明日の決勝リーグは待っててもいいのね?今日は私、買い物に出掛けてもいい?」
「いいよ、良い結果だけ待っててよ」
「わかったわよ、じゃあ行ってらっしゃい」
「行ってきます。まだ行かないけど…」
「…さっさと服を着ろ!!」
アメリカ サンフランシスコ
貴俊は予選会場まで歩いていた。
「さて、今日は勝って明日は夫婦決勝にしないとな…。綾からだけじゃなくスポンサーからも怒られるかも…」
一年前の闘いでは綾が勝ち、そのまま綾の主導のままにあれよあれよ言う間に結婚した二人。
結婚後も二人はずっとゲーム内で競っていた。
個人戦決勝常連、チーム戦、新たに実装されたサーバー間戦でも勝ち続けた実績から半年前に運営会社が主催したイベントに招待され、ネット生中継で二人が夫婦、しかも新婚であることが世間に知れ渡った。
その話題性と容姿、貴俊への言葉遣いから人気が出た綾にスポンサーが付き、プロとして活動するようになる。
社内では二人が結婚した事は発表していたので知ってはいたが、二人ともゲームで有名ということは当然知らず、ネット生中継の翌日は社内話題騒然となった。
プロとなり仕事を辞めた綾とは対称に貴俊はスポンサーが付かなかったので、オニオンとして動画配信を始めた。
生配信の時にはフージンから茶々を入れられたり、急にバトルを仕掛けられボコボコにされたりという展開で人気となり、美人鬼嫁の旦那として有名となった後に夫婦揃って出資してもらえることになったため貴俊も晴れてプロとなった。
そして現在
シャイニングセイバーオンラインの初めての世界大会が行われる事となった。
今回は特別ルールとして各国一人ずつ招待選手として決勝リーグからの参加となっていた。
日本からはフージンかオニオンか、日本のプレイヤーの中でもその二択となり世界大会公式ルールでの一騎討ちで決めることになった。
勝負はフージンの勝利、オニオンは予選からの出場となったため予選会場に向かっていた。
「…あっ、そうだ試合会場の写真撮っとこう。あとは街並みか。それは今撮ろう」
貴俊はSNSに載せる為の写真を何枚か撮り、会場に入るとまた何枚か写真を撮った。
会場に入った貴俊は何人かの日本人から声をかけられ、握手や写真を求められた。
「オニオンさん、今日フージンさんは?」
「……買い物に行くそうです」
貴俊は遠い目をしながら対応した。
「…が、頑張って下さい」
「頑張ります!」
その光景を見ていた他の選手達はオニオンを実力者と見て警戒した。
予選はグループ予選形式で八グループあり、それぞれのグループで十人の出場者がバトルロイヤルを闘い、決勝リーグ行きを決めるやり方だった。
貴俊はエントリーを済ませ、出番を待っていた。
「………」
少し指先が冷たく感じた。
「家とは全く違うってのは覚悟してたけどここまでなんてな、情けない……」
貴俊は手を擦りながら自分に嫌気が差した。
「オニオン!フロムジャパン!!」
心の準備もままならないまま名前が呼ばれてしまった。
視界が歪んだままステージに向かおうとするが
「…あれ?どこに行くんだっけ?」
緊張のあまり向かう場所がわからなくなった。
そしてステージの端で立ち尽くす。
その時
「おい!猫背!!前向け!!眉毛がハの字!!涙目!!口空いてる!!」
客席から聞き慣れた綾の声が聞こえてきた。
「勝てなかったら一年間私の言いなりだからね!!」
「クスクス」
綾の言葉に事情を知っている日本人は笑いを堪えきれずにいた。
それを見た貴俊は恥ずかしくなるとともに絶対に敗けられないと強く思い、目立つように大きく腕を振り上げ観客にアピールしながら席についた。
「…ったく」
綾は呆れながらも笑っていた。
試合開始
「オニオーン!頑張れー!!」
綾の大きな声が会場に響く。
上手く説明出来ない緊張感を維持した貴俊は見事に予選バトルロイヤルを勝ち抜く。
「…危ない、勝てなかったら危なかった」
貴俊はホッとする。
ステージを降りた貴俊は前に綾がいたので咄嗟に目を合わせないように横を向いた。
しかしそれがいけなかった。
「おい!無視しようとしてるな?」
すぐに捕まってしまった。
「か、買い物は?」
「買う物決めてたから買ってからすぐ来た」
「さ、さすが」
「で?今日の反省点は?」
「緊張……」
「ありきたりね」
「…ひどくない?」
「明日は?」
「緊張しない!…ようにする」
「夫婦決勝出来るんでしょうね?」
「今日は何食べる?」
「今の私の質問に答えられなかったら何にも食べさせない」
「…もちろん決勝は夫婦対決だよ!!」
それを聞いた綾は後ろを振り向き
「皆さん!聞きましたー?」
と観客を煽った。
一斉に鳴るシャッター音と光るストロボ。
「…お主、謀ったな?」
「だから突然そういうのやめろって言ってんの!」
そう言いながら綾は貴俊と手を繋いだり腕を組んだり抱きついたりという写真を撮らせていた。
ホテル
二人はベッドに寝転んでいた。
「綾」
「ん?なに?してほしいの?」
「…違う、いや、違わないけど。それとは別の話」
「何よ…」
「綾と付き合ったときに僕が言えなかったこと覚えてる?」
「……表向きは受けだけど実は攻めみたいなこと?」
「違う、いや、違わないけど、今は違う話」
「私が攻めてるようで実は攻めさせられてる…」
「うん、今はその話じゃないから」
「じゃあ何のエロい話よ!」
「…エロから離れて」
「…うん」
「寿司屋行った時、綾の好きなところ言おうとするの途中でやめさせたでしょ?」
「顔って言ったわよね?……あっ、他にもあるとか言ってたっけ?あの時ずっと私の事をマイエンジェルとか言ってたね」
「…言ってないね、言うわけが無い」
「あ!?」
「……女神って言ってたと思う」
「…う、うんうん!そうだ!言ってたね!」
「綾?僕は真面目な話をしてる」
「…うん、ごめん」
「綾はいつでも僕の事を応援してくれるんだ、そこが好き」
「……ん?」
綾は不思議に思う表情をした。
「…え?」
「応援?…いつ?」
「いつも…」
「ん?…いや?」
「…あれ?失敗したかな?」
「何によ!言っとくけど今更離婚とか無しだからね!!」
「結婚してからもっといっぱい好きなところ見つけてるから」
「どこ?」
「…さぁ?」
「はぁ!?」
「教えてほしかったら決勝で僕に勝ってね」
「…あったま来た!!私が勝ったらそれを言わせるのと明日は手足縛って好き勝手してやる!!」
「…それ好きだね?」
「あんたも好きでしょ?」
「…ノーコメント!!」
「…いやだからそれってさ。はぁ…まぁいいわ、覚悟しなさい?」
「…え?どっちの?」
「両方!」
貴俊のスマホに通知が来た。
「ん?」
確認すると元同僚が貴俊と綾の記事を教えて来ていた。
「…綾、記事になってる」
「何が?」
「鬼嫁VSイケメンだってさ」
「その記事書いた奴は誰だ!?」
綾はガバッと起き上がり怖い顔をしている。
「…ごめん、ウソ」
「どこから?」
「鬼嫁から。……ふぐぅ!」
貴俊は脇腹をおもいっきり叩かれた。
「本当は?」
「ケホッ…、夫婦決勝なるか。フージン、旦那を煽る」
「それはそれで……」
「事実じゃん」
「私の事を美人とか紹介してる記事無いの?」
「無いよ」
貴俊は即答した。
「…調べないで言ったな?」
「そんなに言われたいの?」
「そりゃね」
「僕が毎日言うだけじゃ不満?」
「…たまに忘れるだろ」
「ゆ、夢の中で言ってる。寝言で言ってたこと無かった?」
「さぁ?私、熟睡するから」
「…確かにいつも大きないびきを、ごふぅ!」
また脇腹を叩かれた。
「何?今何を言おうとしたの?」
「いびきがセクシー……」
「…微妙な所を言ってきたな?」
「そうだ!たまに、あふぅとかうぅーんとか言うのやめてくれない?」
「言ってないし!」
「言ってるから、こっちはそれで興奮してるから」
「あっ、う、うん…」
「何で引いてんの?」
「その割には寝てる間にってのは無いなぁって」
「そういうのは嫌いだから」
「真面目!!来いよ!私が無理な時はビンタするから」
「…さすがに傷付くよ?」
「何よ!普段は何気に攻めてくるくせに!」
「ねぇ、そろそろ寝ない?明日は綾も試合でしょ?」
「明日の夜は?」
「勝った方が決める」
「フッフッフ、言ったな?私が勝ったらロブスターね」
「…じゃあ僕が勝ったらステーキね。赤身肉!!」
「…脂食えよ、モヤ…スレンダーなんだから」
「今モヤシって言おうとした?」
「した」
「…言い直したのに認めるんだ」
「結婚してからあんただけがドンドン痩せてるって私がお義母さんに悪く思われるでしょうが!」
「…何か言われた?」
「別に言われてないけど」
「表に出る職業だからスマートに行こうとしてるって先に母さんには言っておくよ」
「…じゃあ、あの人はモテようとしてるってお義母さんに後で言っておく」
「台無しにするつもりだね?」
「おやすみなさい」
「…おやすみなさい」
貴俊は少し腑に落ちなかったが自分の方に寝返りをうった綾の方に左腕を差し出した。
「綾、こっちおいで」
「…うん!」
綾は貴俊の腕に頭を乗せ、そのまま抱きついた。