表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/18

#10 決勝、そして

日曜日 昼


「すみません、今日の夜の予約をしたいのですが空いてますか?」

貴俊は今夜、綾と会うためのお店を探していた。


「…そうですよね、すみません。あぁいえいえ。……またダメか」

しかしどこの店も予約が取れなかった。


「あぁ、どうしよ……」

貴俊は額に手を当て、肘をテーブルについた。


「速水さん、肉好きそうだからその店を探してるんだけどなぁ」

貴俊の中で綾は肉好きに違いないと感じていた。


「時間的に十時だよなぁ、…ん?ギリギリか?十一時で探した方がいいのかな?って帰れなくね?」

大きな独り言が部屋に響いている。



「…とりあえず出掛けるか、時間はまだあるし」




綾の自宅

「はてさて、あいつはどういう店に誘ってくるのかしらね」

豆乳を飲みながら今夜来ていく服を選んでいた。


「あれよね?時間的にお泊まりがあり得るわよね?三連休なんだし」

タンスの二段目を開けた。


「やっぱり主導権握るためには派手なのがいいわよね……」


いくつか下着を確認したが

「…いや、あいつ変なところ真面目っぽいからなぁ。今は出来ません!とか、順序があります!とか言ってきそう」

綾はクスッと笑ってタンスを閉めた。


しかし、そのまま笑いながら

「まぁでも、うちに連れ込んじゃえばいいんだけどね」

と悪い顔をした。




夕方 六時


オニオンは早めにログインし、アイテムやスキルの確認をしていた。

「勝たないと先に進めないからな、…ん?これって、もしかしたら使うかもな」

一つのスキルを確認したオニオンはそれを装備した。


そのすぐ後にマップにギルドメンバーのマークが現れた。

「あれ?速水さん入ったのかな?」




「よし!決勝は気合い入れなきゃね!…ってオニオンいるし!」

フージンはオニオンがいるところに向かった。


「オニオン!早くない?」

すぐにボイスチャットで話し掛ける。


「アイテムとスキルの確認をしてました」

「偉い!それ大事よ?…仕事でもそれが出来ればねぇ」

「いつもご迷惑をおかけしてます……」

「いいわよ、その分こっちで働いてもらうから」

「…ぐっ!」

「な、何!?どうしたの?」

「胃が痛くて…」

「私のせい?」

「いえ、僕が弱いだけです」

「そうね」


「…否定してもらいたかったんですけど」

「あんたが想いを伝えてくれたら考えるわ」

「明日…、明日には」

「はいはい、待ってるわよ」


「あっ、そうだ。フージンさんって肉好きですよね?」

「…あ?」

「え?」

「肉食系上司だと言いたいのか?」

「違います。今日のお店です」

「あぁ、それね」


「何だと思ったんですか…」

「後輩男子を狙う女だと思われたのか?って」

「それはそれで正解では?」

「……確かに。で?今日は泊まりでしょ?」


「オールですか?」

「…お前マジか?」

「え?」

「もういい!」


「……あぁ!いやいや、そこは順序ってものがあるじゃないですか!」

「やっぱり…」

「え?」

「そう言ってくると思ってた」

綾はキャハハハと笑った。


「すみません」

「何で謝るの?そういう所が好きなのに」

「え?」

「あんたの不器用な真面目さが好きだって言ったの!!」

「…あ、ありがとうございます」


「で?」

「え?」

「今日の店は決めた?」

「……」

オニオンは何も答えなかった。


「決めてねぇな、この野郎!!」

オニオンは職場と同じように怒られた。


「すみません!必ず!必ず決めるので!」

「期待してるからね?あぁ、肉にこだわらなくてもいいからね?」

「あっ、はい」


「寿司じゃなくてもいいからね?寿司!じゃなくても」

「…寿司が良いんですね?」

「んーん?別に?」

フージンはやんわりと寿司を希望した。


「…ちょっとログアウトしていいですか?」

「いいよ」

「じゃあ、また」

オニオンは姿を消した。



「…まぁ、このぐらいのリードはしてもいいわよね?」

綾はヘッドセットを取りながら呟いた。



「寿司!寿司!」

貴俊は各グルメサイトで必死に店を探していた。


「……あっ!!錦糸町に二十四時間営業の寿司屋あった!!」

すぐに電話した。


「……はい、よろしくお願いします。ふぅー……良かったぁ」

貴俊は椅子の背もたれに脱力の勢いのままもたれかかった。


「良かったぁ……」

もう安堵しか感情がなかった。




夜八時半


「フージンさん!」

「おかえり。で?」

「イベント終わったら錦糸町で会いましょう!」


「見つけたのね、やるじゃない」

「もっと褒めてもいいんですよ?」

オニオンはくるくると回るモーションをしている。


「調子に乗ってんじゃねぇぞ?先週のやらかしを列挙していってやろうか?」

「…申し訳ありませんでした」


「まあ、とにかく見つけてくれてありがとう」

「…はい!」

「で?勝てるのよね?」

「勝つんじゃなくて優勝します」

「一緒じゃない…」

「……気持ちの問題です」


「で?」

「え?」

「今夜はどうするの?絶対に帰れないでしょ?」

「…何とか帰ります」


「そんなに私と一晩過ごすの嫌?」

「嫌なわけないじゃないですか!むしろずっと一緒にいたいです!」


「そ、そう…」

「あっ、すみません…。引きましたよね」

「引いてはないけどビックリした。むっつりスケベって事ね?それとも一生一緒にってこと?」


「いや、それはちょっと…。あっ、いや一緒にはいたいですけど」

「違うの?」

「ん、んーと…」

「ねぇ?聞いていい?答えたくなかったら答えなくていいから」

「それって答えない事は肯定してるって質問の仕方をする時の聞き方ですよね?」

突然、理知的な言動がオニオンから発せられた。


「…なんか腹立つ!あんた女性経験は?」

「無いです」

「じゃあ、すんなりそう答えなさい!!」

「す、すみません…」

「じゃあ私が初めての女ってやつ、その通りじゃない!」


「いや、まだですけど…」

「私とはそんなつもりないってこと?」

「いや!そういうことでは」

「私で何回妄想した?」

「ノーコメントです」

「何回かしたって事ね」

「…しまった。答えないことが答えになるやつだった」


「…あんたって意外と人とのやり取りの事を意識してるのね、この質問はこういう意味とか」

「まぁ、それなりには」

「…なるほどね」


「フージンさん、今にやけてますね」

「な!なんでわかるの?まさか、カメラ!」

「そんなことしません!っていうか家を知りません!」

「ハハハ!冗談よ。それよりも私の事わかってくれてて嬉しいわ」


「僕からも聞いていいですか?」

「断る!!」

その言葉はとても強かった。


「えぇー……」

「女はミステリアスじゃないと」

「すみません、ちょっとよくわかりません」

「何がよ!?」


「ミステリアスな女性と結婚しても上手くいかない気がします」

「…わ、私はあなたが好き!」


「いや、そういうことでは。いや、そういうことですけど、…あれ?」

「聞きたいことは違うって事でしょ?そんであんたが聞きたいことはわかってるわよ」

「え?」


「私にとってあんたは初めての男じゃない、でも最後の男と思ってる。…これでいい?」

「は、はい」


「あんたにとっても私は初めての女で最後の女。でしょ?」

「初めてかどうかは別にして」

「強がるな、意地張るな!」


「すみません、初めてです…。ん?初めてじゃないですよ!!」

「え?」

「いや、僕たちまだ何も始まってませんよ?」

「あ、あー…、そういえばそうだったね」

綾は走りすぎていたことに気が付いた。


「僕の事、放っておくとどっか行っちゃいますよ?」

「それ私のセリフ!!あんたは黙って私の事を愛してなさい!」


「…続きは明日で」

「続きはウェブでみたいに言いやがって!……ップ、クス」

「ハハハ」


その後二人は何故か大笑いした。


「…ねぇ、聞いていい?」

「はい」

「私と歳がいくつ違うか知ってる?」

「五歳ですよね?」

「…いいの?」

「え?」

「いや、私があんたに積極的になれなかった理由がそこだからさ」

「年齢で人を好きになったりしませんよ」

「…じゃあ私のどこが好きなの?」


「続きは明日で」

「続きはウェブでみたいに言いやがって」

「それ、気に入りました?」

「あんたがフッてきたからでしょ!?」


また大笑いした。



「あっ、もうこんな時間ですね」

「ん?あと三分じゃない!気合い入れなさいよ!?」

「はい!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ