Episode:96
「ガキどもを黙らせるのには、お嬢ちゃんの言った方法しかないのは確かだ。
お前、行って看護士どもにどうにかさせろ」
「了解」
ひとりが出て行きかけた。
その背へ、またリーダーが言葉をかける。
「だが、この中へは入れるな。部屋の外まで持ってこさせるんだ」
「わかりました」
今度こそ男の人が出て行った。
――よかった。
さすがにほっとする。
これで……この子たちに、何か食べさせてあげられるだろう。
あたしは傍にいた赤ちゃんを抱き上げた。
「待っててね。あとちょっとで、ミルクあげるから」
赤ちゃんを抱くのは、慣れていた。
大勢が暮らすシュマーの本拠地は保育施設もあって、たくさんの子供がそこで暮らしている。
ただ、もともと限られた血縁を中心とするシュマーは、人手が不足気味だ。そのうえどうしても軍事が優先になるから、あたしはそこへ帰るといつも、保育所なんかで手伝いをしていた。
そういえばあの子たち、どうしてるだろう……。
メインファクトリー・END――シュマーの本拠地はこう呼ばれている――の子たちの顔が、脳裏に浮かぶ。
最後に帰ったのは、この間の夏だ。
それからもう、1年近く。全員が無事とは思えなかった。
シュマーの一族は子供の死亡率が高い。それも戦死ではなくて、病死してしまうケースが多かった。
一族が持つ強靭な体質が、一方で適合しきれなかった子たちを、死なせてしまうのだ。
もちろん今も必死に治療法が研究されている。でも原因も症状もさまざまで、決定的なものはなかった。
――早く、方法が見つかるといいのに。
発症したが最後かなりの確率で死んでしまうという点では、この子たちよりも重症だろう。
そんなことをいろいろ考えながら、人質になっている子たちの相手を続ける。
と、ドアが開いた。
その向こうのに見えたワゴンに、子供たちの瞳が輝く。
「おかしだ〜っ!」
「だめっ、静かにっ!」
とっさに制止した。
ただでさえ犯人たちはイラついているはずなのに、騒いだりしたらよけい刺激してしまう。
「今、ちゃんと分けてあげるから、待って」
ワゴンの上には哺乳瓶のほかに、コップに入ったミルク、ビスケットやキャンディーなんかがたくさん載っていた。一緒にあるサンドイッチに見覚えがあるから、きっと看護士さんが患者さんから集めてきたんだろう。
ともかく赤ちゃんに哺乳瓶を渡して、それから食べ物を他の子に分ける。さらにコップのミルクを配ろうとして――あたしは気づいた。
数が合わない。