Episode:87
「さっさと歩――待て、その骨董品は置いていくんだ」
「いやっ!」
太刀を取り上げられそうになって、あたしは騒いだ。
「これはダメっ、兄さんの形見――」
「ちょっと、そのくらい持たせてやりなさいよ」
看護士さんも事情が分かっているから、上手く加勢してくれる。
「こんな華奢な子なのよ、なにか出来るわけないでしょう? それにそんな大事なもの取り上げたら、きっとずっと泣いてるわよ」
「………」
犯人たちが沈黙した。子供に泣かれるのは、嫌いなんだろう。
「――それは特別に持たせておいてやる。さあ、さっさと歩け」
追い立てられるようにして、廊下を歩く。
タシュア先輩たちの病室は、静かなままだった。あたしが潜入する話は行ってるはずだけど、状況が状況だから、知らん顔をしてるんだろう。
――イマド、サンドイッチ食べたかな?
ふと、そんなことを思う。ジュースは届けそこなったけど、サンドイッチはシルファ先輩が持っていったから、手に渡ってるはずだ。
こんな状態じゃ夕食だって出てないだろうし、いつも「お腹が空いた」ってイマドは言ってるから、食べなきゃ持たないだろう。
あの量で、足りてるといいんだけど……。
「なんだ、その子供は」
途中通ったナースステーション――先輩が入院したほうじゃなくて隣――で、他のメンバーに呼び止められた。
「向こうの病室に、隠れてたようです」
どうやらこの話している相手が、グループのリーダーらしい。ちらりとこっちへ向けた視線はひどく無機質で、あたしのこともその辺の物と同じにしか見ていないみたいだった。
「ほう、よく今まで隠れていたもんだな。ところで、その太刀はなんだ」
あたりまえだけど、ここでも見咎められる。
「それが、兄貴の形見だとか言って、放そうとしないんで」
リーダーらしい人が、いきなり太刀を掴んだ。
「だめっ、やめて!」
「うるさい」
突き飛ばされて、取り上げられる。
けどすぐにリーダーは、太刀を放り出した。
「なんだ、抜けないのか。
まぁそうだな。こんなモンを子どもに、そのまま持たせるワケないか」
そんな言葉を聞きながら、慌てて拾い上げる。飛行の際に危険がないように、太刀が簡単には抜けないようにしておいたのを、勘違いしたらしい。
「まぁ仮に抜けたとしても、使えないだろうしな。他の子供と一緒にしておけ」
「分かりました」
小柄なのが幸い、また上手く誤解してもらえたみたいだ。
あたしとしては、これはこれで複雑なのだけど……。
それからほんのちょっとまた歩いて、ナースステーションの隣にある扉の前で、立ち止まるように言われた。
「動くんじゃないぞ。
――俺だ。隠れてたガキを見つけた」
「まだいやがったんですか」
声と一緒にドアが開いて、中へ押し込まれる。中にはイマドからの情報どおり、3人の見張り。
それと……。