Episode:86
「待って! 病室はあたしが行くわ」
続いて少しやり取りがあって、結局女の人の足音も一緒にこっちへと来る。
もし部隊の突入――こんなにのんびりした突入なんてない――だった時に、この方が被害を受けなくて済むという話になったらしい。
足音が病室の前で止まる。
「誰なの?」
穏やかな声がして、魔光灯が点いた。
一瞬の間。
「――なんでぇ、ガキかよ」
女の人は当たり前だけど看護士さんで、その後ろにいた犯人らしい男性のうちのひとりが、あたしを見て呆れた顔をする。
「どうしたの、こんなところで」
看護士さんのこの言葉にピンと来た。この人はきっと、窓を開けておいてくれた人だ。
だとすれば細かい話も知ってて、口裏を合わせてもらえるだろう。
「その……あたし、隠れて……」
なるべく怖がっているようにして、答える。
「隠れてって、ここにずっと独りでいたの? 可哀想に」
思った通り、話を知ってたみたいだ。あたしの傍へ来て、抱いて頭を撫でてくれる。
「病室はどこかな?
――あ、もしかして夕方、検査入院する予定だった子なの?」
「あ、はい……」
上手く作ってくれた話に乗る。
「待て。親はどこだ」
犯人のもうひとりが、鋭く訊ねた。
――見破られないといいんだけど。
内心そんなことを思いながら、あたしは用意していた答えを口にする。
下を向いたまま、なるべく怯えたふうに。
「その、あとから荷物……持ってくるって……」
「あらら。それであなただけ、ひとりになっちゃったのね」
看護士さんが、あたしの話を上手く補足してくれた。
「さ、ともかくこっちへいらっしゃい。部屋、確かめてあげるから」
「それはダメだ」
いっしょに病室を出ようとしたところで、鋭く止められる。
「ガキは全員、こっちで預かる」
「でも!」
「黙れ。死にたいのか?」
犯人がこっちへ銃を向けた。
「言うとおりにしないなら、今ここでガキと一緒に殺してやる。
――さぁ、どうする」
看護士さんが、すまなそうにあたしから離れた。
「ごめんね……」
この人、本当に度胸がある。この状況で、訓練も受けていないのにこんな演技ができるなんて、そうとうの精神力だ。
ただあたしは、下を向いたまま答えなかった。なるべく怖がってるようにしなくちゃいけないのに、答えたらかえって怪しまれるだろう。
「来い、こっちだ」
乱暴に腕を引っ張られて、思わず顔をしかめる。
「ちょっと、なんてことするの! 相手は子供なのよ、せめてそっとやりなさい!」
「うるさい」
看護士さんの言葉に犯人はそう言ったけど、腕は放してもらえた。ただ代わりに、背中に銃を突き付けられる。