表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/121

Episode:85

「鳥を降下させる。降りる用意を」

「了解」


 巨体が中庭も越えて、少し高度を下げる。

 瞬間、あたしは金具を外して屋上へ飛び降りた。そしてすぐに、懸垂降下の準備に入る。

 先輩がどうしたかは、見る暇はなかった。ともかく作業を早く済ませないといけない。


 あらかじめ用意しておいた金具を柵に噛ませて、その先に繋がるロープをなるべく真っ直ぐ下へ投げる。同時に柵を乗り越えて、降下用の金具とロープも繋いだ。

 1回だけロープを引いて、外れないか確かめる。


――よし。

 確信のある手ごたえが来て、あたしは即座に降下に入った。降りるのは2階分だから、すぐだ。

 目的の高さで昇降用の金具を操作して止まって、侵入に使う窓を確かめる。


――よかった、開いてる。

 可能なら開けておいてくれるという話だったけど、上手く時間が取れたらしい。

 もちろん開いてない時のために、ガラスを切る道具なんかは持っている。でも使わなくて済むほうが、ぜったい良かった。


 そっと窓に取り付いて、降下用の金具をロープから外す。その間にちらっと見た部屋の中は真っ暗で、ドアの外にも人の気配はない。

 少しほっとしながら、音を立てないようにしてすべり込んだ。

 次いでドアから死角になる位置に移動、気配を殺して――もっともこれはいつもだけど――周囲を覗う。


 病院の中は少しざわついていた。外の爆発音と投光器が消えたのとで、さすがに犯人グループが警戒してるらしい。

 けどそれも、待つうちに引いていった。

 「爆薬を暴発させるなんざ、シエラの傭兵隊も大したことないよな」。そんな声が、かすかに聞こえてくる。


――いいかな?

 そっと背中の布包みを降ろして、ほどいた。バックパックにしなかったのは、この方が隠す手間がないからだ。


 中身を全部出して、布を丁寧に畳む。それに用意しておいた精霊とメモを挟んで、枕元の台の上に置いた。

 上手くいけば、看護士さんが見つけてイマドたちに届けてくれるだろう。それにこれだけなら、万が一犯人たちが見つけても、使い道も意味も分からない。


 それから、あたしは着替えに入った。

 まず暗緑色の、フード付きの上着とスパッツを脱ぐ。あとは上に、持ってきた丈が長めの長袖Tシャツとガウンを羽織るだけだ。

 下は暗緑色の下に黒のスパッツを重ね着しておいたし、履いてきたのも室内履きに似せた靴だから、代える必要はない。


 脱いだものも畳んで、これはマットとベッドの隙間に押し込む。押し込んだのは足元のほうだから、掛け布団が邪魔になって簡単には見つからないはずだ。

 太刀は……いろいろ考えたけど、そのまま持っていることにした。あとは上手くごまかせることを、祈るしかない。


 ともかくこれで、偽装?は完了だった。

 気配を殺したまま、また部屋の外を覗う。

 誰にも気づかれた様子はない。これなら予定通りに行けるはずだ。


 ひとつだけ、大きめに息をする。そして思い切ってサイドテーブルを蹴飛ばした。

 室内はもちろん、廊下にまで大きく物音が響く。

「今のはなんだっ!」

 怒鳴り声がして、足音が近づいてくる。


――撃たないでくれると、いいんだけど。

 防御魔法を唱えながら、そんなことを思った。撃たれてケガをするわけじゃないけど、やっぱりあんまり気持ちはよくない。

 けど意外にも、次に上がった声は女の人のものだった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ