Episode:83
◇Rufeir
あたしたちは病院から少し離れた林の中の、ちょっと開けた場所に移動していた。
周囲にはあたしの他に、上級傭兵や候補生の先輩たちが大勢いる。でもみんなほとんど無言だから、人数からするとすごく静かだった。
あとは、たまに巨鳥が翼を動かす音。
巨鳥はぜんぶで、4羽居る。どれもここからそう遠くない、ユリアス軍のケンディク基地から、騎手ごと借りてきたものだ。こんな貸し出しは前例がないって話だったけど、なにしろ事情が事情だから、異例の速さで許可が出たんだっていう。
「あと10分を切ったぞ。各自最終チェックをしろ」
低い声で、命令が出る。
あたしももういちど、装備の確認に入った。
――大丈夫。
全部ポーチなんかは閉まっているし、そうじゃないものは背中だ。降下に使う金具とロープも問題ない。
装備はかなり軽装だった。いつものキットが入ったポーチに武器、あとは布で包んで背中に括りつけた着替えくらいだ。だいいち患者さんになるというのに、そんなにいろいろ持ってはいけない。
周囲の先輩たちは、突入用の装備だ。ただこれもロデスティオ軍なんかに比べると、遥かに軽装だった。
なにしろシエラ学院の上級傭兵は、精霊の支援で高度な魔法を駆使する。だから削っても大丈夫な装備が多かった。
例えば各国の正規軍がよく持っていた防弾装備なんかは、防御魔法で代用が効く。
それに主要武器は銃系じゃなくて刀剣類――正規軍を相手にした時、銃弾は魔法でほとんど弾かれる――だし、手榴弾の代わりに魔法で済むから、弾薬類も特殊なもの以外はほとんど持たない。
おかげでシエラの上級傭兵隊は世界でも稀な、軽装備の特殊部隊だった。
「ベルトの浮遊石の発動は、打ち合わせどおり5分前だ。いいな」
また確認の声が飛ぶ。
あたしは自分だけ屋上へ行くつもりだったけど、先輩たちが立てた作戦は違った。キエーグのベルトを使えば、いっぺんに4人は運べるからと、上級隊を屋上へ展開させるっていう。
あとはひたすら待機、時間になったところで懸垂降下して、非常ドアなんかと併せて一気に突入だ。
でもこれなら、かなり攻撃に幅が出る。そしてそれは、作戦の成功につながるはずだ。
ネックのひとつだったナースステーションの掃討も、同時刻にタシュア先輩たちが動くという話が来て解決した。
そしてもうひとつのネックは――あたしが受け持つ。
「ルーフェイア、今いいかしら?」
「あ、はい」
イオニア先輩が話しかけてきた。
先輩、屋上部隊を指揮して、中を掃討することになってる。
「ほんとうはこういうことは、事前に各人でやっておくべきことだけど……あなたまだ小さいものね。
いまのうちにもう一度、手順を確認するわよ」
「はい」
あたしはうなずいた。手順自体は何度も読んで頭に叩き込んであるけど、ここで確認するのは悪くない。
「2040に、表の投光器がいったん切れるわ。
私たちはその2分前に飛び立って、暗くなるのに合わせて屋上へ。あなたはさらに、懸垂降下で潜入。OK?」
「了解です」