Episode:81
「子供たちの安全を確保するために、ひとり事前に窓から潜入します。ですがまさか、入院患者がいる部屋からは入れませんので」
主任がますます、困惑した表情になった。
「ちょっと待ってよ。あたしたちもあなたたちも入れないのに、どうやってチビちゃんたちの所まで行くの?
その人が来ても、ムダだと思うんだけど……」
「来るのは12歳の少女ですから」
「じゅ――」
「静かに。見張りに聞こえかねません」
また主任を、タシュア先輩が黙らせた。
「年齢こそ12ですが、彼女はシエラの上級傭兵並みか、それ以上の実力の持ち主です。入れる部屋さえ分かれば、あとは自力で全てやってのけます」
これ、目の前で言ってやりゃいいのに。
主任がまたため息をついた。
「ほんと、学院ってのは凄いとこね。
部屋は――まず3号室、それに7号と8号、あと12号室が空いてるわよ」
さすが主任なだけあって、即答だ。
「その4つとなると、3号室しかありませんかね」
こっちも即決する。
「どうして?」
「他は全て外に向いていますが、3号室は中庭に面しています」
「――?」
まだよく分かんねぇらしい主任に、今度はシルファ先輩が追加の説明をした。
「犯人の注意は、だいたい外側へ向く。だから中庭のほうは、比較的見つかりにくいんだ」
「あ、なるほど……」
やっとこの人が納得する。
「見つからないようにしないと、意味がないわけよね」
「そういうことです」
さらにタシュア先輩が指示を出した。
「もしできるようでしたら、3号室の窓を開けてカーテンだけにしておいてください。そのほうが潜入の際に、リスクが減ります」
「いいわ。
それで、その子が来たらどうすればいいの?」
少し先輩が考え込む。どうもありそうな状況を、シミュレーションしてるらしい。
「そうですね――騒ぎが起こった場合にのみ、危険のない範囲で様子を見に行ってください。
それともうひとつ、騒動が収まったあとに部屋の片付けをお願いします」
主任が憮然とした。
「それは、言われなくてもやるわよ」
プロ意識とやらが、傷ついたんだろな。
――もっともこの先輩、んなの意に介さねぇ性格だけど。
今も平気?で説明続けてるし。
「そうではありません。
彼女が潜入の際に、何かを持ってくる可能性があります。ですからその後部屋へ行って、もし見つかれば確保しておいて頂きたいのです」
主任が首をかしげる。
「――なんかよく分からないけど、それも分かったわ。
それでもう話はない? あんまり一つの病室に、長居するわけにはいかないのよ」
時計を気にしながら、この人が訊いてきた。