Episode:80
「た、大変だわっ!」
「落ち着いてください。まだ話は終わっていません」
タシュア先輩の有無を言わせない口調に、主任がため息をついて向き直る。
「手短にして。早く報告しないといけないから」
「全て聞き終えてからのほうが、いいと思いますがね」
「あなたねぇ……」
けど先輩の毒舌で、この人もいつものペースが戻ったらしい。
――意外なとこで、ヘンな効用あるんだな。
なんか感心しちまったり。
主任が落ち着いたのを見て、タシュア先輩が口を開いた。
「ご存知かどうか分かりませんが、既に外にはシエラの傭兵隊が展開しています。ですからこの後、場合によっては彼らによる突入があると思ってください」
「と――?!」
「静かに」
思わず声を上げそうになった主任を、タシュア先輩が制す。
「あ、ごめん。
でも、そんなことしたら患者さんが――」
「心配ありません。
突入の目的は、私たち人質の安全確保と、犯人グループの拘束が目的です。ですから病室から出ないよう徹底しておけば、被害を蒙らずに済みます」
「そうなの?」
まだ半信半疑らしいけど、ここは信じてもらうしかねぇだろう。
「病室から出なければ、安全は保障します」
「――わかった。患者さんにそう伝えるわ。
でもあたしたちは、どこにいればいいわけ?」
今度は主任の言ってる意味が通じなくて、タシュア先輩が説明を求めた。
「だから……あたしたちは普段、ナースステーションの隅に犯人と一緒にいて、呼ばれた時なんかに病室へ行くだけなのよね。
でも一緒にいたりしたら、危ないわけでしょ?」
「確かにそうですね」
先輩が少し考え込む。
「――職員の控え室かなにかは、ありませんか?」
「狭いけど、ナースステーションの隣にあるわ」
「では何か口実を設けて、できる限り全員そこにいるようにしてください。
それで、ほぼ安全が確保されるはずです」
主任がほっとした表情になった。
まぁ誰だって、犯人の巻き添え食らってケガするのはゴメンだろう。
「さすがに全員はムリだろうけど……なるべくみんなで、引っ込めるようにしてみるわ」
「そうしてください。
もっとも、必ず突入すると決まったわけではありませんがね」
「なんだ、そうならそうと言ってよ。まったくびっくりさせるんだから」
最後の言葉に、主任、気が抜けたらしい。
――ウソだけどな。
素人連中が「突入」なんて聞くと、ビビって素振りが変わる。そっから犯人連中にバレるの避けるのに、先輩はこう言っただけだ。
「私は最初から、必ず突入するなどとは言っていません。『可能性がある』とだけ、言ったはずですがね」
しかもタシュア先輩、突っ込むし。
けどもう、主任は怒るのもめんどくさくなったらしかった。
「まったくもう。
――ともかく分かったわ。婦長に伝えて、できる限りのことはする」
「お願いします。それから、空いている病室を教えて頂けますか?」
「空き部屋? そりゃあるけど……どうして?」
いきなり飛んだ話の内容に、主任ついてこれなかったらしい。