Episode:08
「ルーフェイア、どうかしたのか?」
「あ、いえ、なんでもありません」
黙りこんでしまったあたしを心配して、シルファ先輩が声をかけてくれる。
「それならいいんだが。
――それにしても今日は、ずいぶん暖かいな」
「そうですね。
あ、だから先輩、スカートなんですか?」
あたしがそう言うと、シルファ先輩が困ったような顔をした。
「あの……?」
またあたし何か、悪いことを言っちゃったんだろうか。
「すみません、あたし……」
「あ、いや、そうじゃなくて……その……見ないでくれないか……」
「え?」
見ないでって言われても、どうすればいいんだろう。
「その、目をつぶっちゃうと……歩けないんですけど……」
「そういう意味じゃないんだが」
あたしの言葉が可笑しかったみたいで、シルファ先輩が笑った。
――素敵だな。
シルファ先輩は本当に大人の雰囲気で、とても憧れる。
今もワインレッドのシャツに、もう一段濃い色のひとつボタンのジャケット、それに黒に近いグレーのタイトスカート――それも前スリット――を、さりげなく着こなしていた。
けど本当に、シルファ先輩のスカート姿は珍しい。覚えているかぎりでは、ドールでのドレス姿以外じゃ初めてだ。
それもドレスを着てもらうのに大騒ぎ(?)するほど、先輩はスカート類は大嫌いだった。
「だから、見ないでくれないか……」
「え、でも……」
「――やれやれ」
シルファ先輩の言葉に困っていると、タシュア先輩から呆れられてしまった。
「すみません……」
「ですから、あなたが謝る事ではないでしょう。
これで何度目だと思いますか?」
「――ごめんなさいっ!」
思わず下を向いて、泣かないように唇を噛んで――でもやっぱり、涙がこぼれた。
ここへしゃがみこんでしまいたくなる。
けどそうやってても、絶対にまた怒られるだけだから……。
「その、まぁ、とりあえず行こう。イマドが待っているぞ?」
「あ、はい……」
シルファ先輩がまた、あたしをうながした。
そのままメインストリートを真っ直ぐ行く。この先は右へ行けば駅、左の坂を下れば公園だ。
不意に潮風が吹きぬけた。
碧い海から駆け上がってきた青い風。
やっぱりあとでイマドに頼んで、海を見ようと思いながら、あたしは突き当たりで右へと折れた。
駅前の広場は暖かいせいなのか、けっこう賑わっている。だけど駅から出てくる人はいないから、まだ列車は着いていないみたいだった。
「どうにか間に合いましたかね?」
同じことをタシュア先輩も言う。
「あの、そうしたら、ここでいいですから――」
「ルーフェイアっ!」
先輩たちにお礼を言いかけたところで、聞き慣れた声が重なった。