Episode:79
「まぁあいつ、ケタ狂ってますから」
「それはそうだが……」
シルファ先輩、否定しねぇし。
けどあいつは実地で鍛えてっから、実際問題上級傭兵顔負けだ。
「まったく、何にでも首を突っ込みたがりますこと。
ですが彼女がやるというなら、恐らく大丈夫でしょう」
タシュア先輩、毒舌冴えまくってるし。
ただ相手の力量はちゃんと認めるあたりは、この先輩は公平だ。
「潜入の方法は訊いていますか?」
「懸垂降下でこの階のどっかの病室に、潜り込むって言ってましたっけ」
「……ほう」
先輩が面白がるみてぇな声を出す。
「懸垂降下と言うからには、ここの屋上へ上がるのでしょうが……どうするつもりやら」
「巨鳥、使うって言ってましたよ。ついでに上級隊も、屋上に展開させるらしいです」
先輩2人の表情が変わる。
「まったく、贅沢な作戦を取りますこと」
「たしかに屋上へ上がるには効果的だが……何羽要るんだ?」
言い分はもっともだ。巨鳥で屋上に展開とか言ったら、ふつうは十何羽が逃げて無駄になっちまうし。
けど、今回は違うわけで。
「ルーフェイアのヤツ、キエーグのベルト使って、一度に何人も運ばせる気らしいですけど」
「………」
シルファ先輩はもちろんさすがのタシュア先輩も、こん時だけはなんも言わなかった。
「言われてみれば、それで出来るな……」
「検証もしないでやるあたり、どうかとは思いますがね」
前言撤回、やっぱ言うだけ言うし。でもこの先輩相手じゃ、言い返すだけムダってヤツだ。
「ともかくそゆ話なんで、看護士さん呼んでいいですか?
あいつ、どの病室が空いてるか訊いてから、入るトコ決めたいって言ってるんで」
「そういうのを、行き当たりばったりと言うのですがね」
ナースコール押してる最中まで、先輩の毒舌ときたらまだ止まらねぇし。
まぁ要するに、自力で情報取って決めろってんだろう。
――この状況で出来るかどうか、知らねぇけど。
だいいちルーフェイアのやつにしてみりゃ、どゆ手段使ってでも万全を期したいはずだ。
「だが、これで……かなり楽に、なるんじゃないか?」
「なるでしょうね」
面と向かって聞いたら、ルーフェイアのやつが大喜びしそうな台詞で、タシュア先輩がシルファ先輩に答えた。
「後はナースステーションに残っている犯人ですが――」
「今度は何の用?」
タシュア先輩の言葉にかぶさるようにして、さっきの主任看護士が部屋へ入ってきた。いつのまにか俺らの相手は、この人に決定しちまったらしい。
「犯人たちがが期限を切りました」
「……どういうこと?」
業界が違うせいで、伝わってねぇし。
「失礼、言葉が足りなかったようですね。
犯人グループが本日の23時を最終期限と決め、それを過ぎたら人質を殺していくと通告したのです」
「えっ――」
とたんにこの人、部屋を飛び出そうとした。