Episode:76
(グレイス様の潜入と屋上からの展開、この2つを踏まえて、部屋を教えてください)
言ってることは間違っちゃないけど、かなりムチャクチャだ。
っても、断る理由はないわけで。
(そしたら、それが出来そうな部屋ってセンで探しますから、時間もらえませんか?)
(了解しました。では……20分後にもう一度、こちらから連絡します。
それから、犯人側が期限を切ったことはご存知ですか?)
「マジですか?!」
「先ほどからひとりで、何を言っているのです」
慣れないせいか、ついまたうっかり、口にしたらしい。
「えーと、こっちのことなんで」
「………」
一瞬だけ鋭い眼差しを見せてから、この先輩はまた本に視線を戻した。
――こっちも大したもんだよな。
ルーフェイアとは正反対、人のことは構わないのが徹底しまくってる。
とは言えこれで見るとこは見てたりするから、無関心がイコールじゃないのが怖いとこだ。今俺がやってることも、知らん顔してバレバレって可能性もあるし。
とりあえず俺は意識を戻した。いちばん大事なことを訊く。
(期限って、いつ……なんです?)
俺が慣れてないから、そろそろ接続がヤバくなってきてた。
(2300です。
では、また後ほど連絡しますので)
限界なのが分かったんだろう、向こうもあっさり話を打ち切る。
期限って話に時間が気になって時計を見ると、夜の8時になろうかってとこだった。
「――3時間ちょいか」
なんとなく俺はつぶやいた。途中で2回昼寝したのが効いて、けっこう時間が過ぎてる。
「なにが3時間なのです」
また先輩が、俺に鋭い視線を向けた。
「えーと」
どう説明すっかな。
だいいち話自体も、混み入っちまってるし……。
「ん……」
どう言おうか悩んでるうちに、今度はシルファ先輩まで目を覚ます。
「目が覚めましたか」
「……?」
けどまだ身体は起きるとこまでいってないらしくて、やたら眠そうだ。
――こゆ雰囲気、ルーフェイアに似てるよな。
もっともあいつの場合、誰かれ関係ナシにこういう無防備だから、かなりコワかったりもする。
ヘンなオヤジにくっついてかねぇように、よく言っといた方がいいか……?
俺がンなこと考えてると、シルファ先輩が身を起こした。
「何か……あったのか?」
「これと言って進展はありません。イマドがひとりで話をしていただけです」
「――ひとりで?」
黒髪の先輩が、怪訝そうな顔になる。
「ひとりで話をして……面白いのか?」
「いくら俺だって、ンなことしませんって。相手がたまたま見えなかっただけです」
「十分妙だと思いますがね」
これはさすがに返す言葉がない。
とは言え状況からして、言っとかないとヤバいだろう。
かといって、説明しないわけにもいかないっつーのが……。